ファッションにはそもそも「無駄」がつきものだ

Algorithmic Coutureで作られた洋服

Algorithmic Coutureで作られた洋服

これまで「川上から川下へ」と一方通行だったアパレル業界のサプライチェーンだが、近年メルカリによる売買や、H&Mやユニクロの店舗古着回収など、循環が始まっており、持続可能性を考えるためにはこの循環という概念が欠かせない。

その上で、そもそもファッションというクリエイティビティには「無駄」がつきものだという事実を忘れてはならない。無駄のない、合理的な洋服だけではむしろファッションが産業として成り立たなくなるわけで、「ファッションは楽しんで買うもの」だということが最優先事項だと思う。「作るなら少しでも不要な無駄をなくす」「楽しんだ後ゴミにならない」、そんな仕組みをテクノロジーで作ってゆく。これこそが今の時代のサステナビリティの捉え方ではないだろうか。

少し具体的にサプライチェーンを分解して考えれば、素材と意匠設計、製造、流通、そして廃棄という5つの工程がある。それぞれの工程において、オーガニック素材の導入や無駄のないパターン製作、縫製、トレーサビリティを導入した流通経路の可視化、余剰衣服の再利用など、具体的な対処法は数多くある。

SynfluxのAlgorithmic Couture

たとえば、今年4月に「Global Change Award」で特別賞に選出されたSynfluxの「Algorithmic Couture」は生地裁断での余剰を減らした衣服生産を可能にした。そのほか、個人のクローゼットの中で着られない服をなくす「シェアクローゼット」や売れ残った洋服のタグを付け替えて再販する「リネーム」という仕組みなど、各工程で出てしまう無駄を減らすためのテクノロジーやシステムが次々と誕生している。

ブランドごとにどんなテクノロジーやシステムを使って、どの工程で出る無駄をなくしていくのか、具体的な仕組みへ落とし込んで考えることは必須である。無駄は、ブランドや消費者の負担になっているわけで、必要のない無駄を効率よく減らすことができるのは、地球環境や人権保護のため以前に、自社の経済合理性にもつながるはずだ。

>AIやバクテリアと一緒につくる廃棄ゼロの服。目指すは包括的なサステナビリティ
https://imag.sitateru.com/inspiration/algorithmiccouture/

>「新しい出合いで着られない服が減る」エアクロが考える洋服目線のサステナビリティ
https://imag.sitateru.com/inspiration/sharecloset/

>タグを付け替えて再販、アパレル流通にサステナブルな“Rename”という選択肢
https://imag.sitateru.com/inspiration/rename/

サステナブルと銘打って「ダサい」ものを作っていては意味がない

LOOPの増汐義信さんが始めた二次流通プラットフォーム「OR NOT」

LOOPの増汐義信さんが始めた二次流通プラットフォーム「OR NOT」

大前提として考えなければいけないことは「消費者にとってその服がサステナブルであることが購入要因になるのか」ということ。消費者側に意識があるかないかということではない。購入を決める最大の要因は「本当に自分が欲しいかどうか」ではないだろうか。

座談会でも、CSRの文脈やエコの観点から自社のサステナビリティを必要以上に打ち出すことは、エゴであって、むしろ「ダサい」という意見が多く出た。幼い頃から環境破壊という課題を目の当たりにしてきた若年層にとって、サステナブルやエコという考え方はもはや当たり前。一過性のコンセプチュアルな商品や直接的なメッセージではなく、ブランドの態度として語られるべきだ。

デザインの観点でも、サステナビリティと聞けば「色が淡くてシンプルなもの」とか「オーガニックコットンを使った洋服」という印象が強いが、上記でも述べたようにサステナビリティの導入手段はさまざま。目には見えない形でいろんな無駄を省いたカラフルな洋服だって大いにあり得る。たとえば、古着やアーカイブなどをカスタマイズして作る「somebody kotohayokozawa」のようなデザイナーズブランドもあるように、サステナビリティだからといってデザインの幅が狭まるわけではないということは、もっと業界全体が伝えていかなければいけないだろう。

>新興デザイナー長見佳祐、横澤琴葉、川崎和也が挑戦するサステナブルなものづくり
https://imag.sitateru.com/imagination/sfvmeetup-2/

ブランディングを追求した二次流通のプラットフォーム「OR NOT」を作った株式会社LOOPの増汐義信さんは、「(二次流通に対して)ダサいとかお金がなくてみたいなイメージを持たれている方々が一定数いるのは事実。だからこそ、洗練されたイメージにしっかり作り込み、表現することを『OR NOT』では強く意識した」と話していた。こうした見せ方のアプローチもファッション業界ならではの可能性がある分野ではないだろうか。

>小木POGGY基史×OR NOT増汐「古着がサステナブルでクール」日本に根づくか
https://imag.sitateru.com/inspiration/ogipoggy-ornot/

無駄を出さないためには、それ相応のデザイナーの「覚悟」が必要だ

コレクションランウェイ

では、モノづくりに携わる人々がサステナビリティを本質的に捉えるために必要なものが何かといえば、それは「覚悟」だと思う。冒頭でも述べたが、そもそも着飾るためのファッション産業には無駄が不可欠。世界観を伝えるためのランウエイで発表するショーピースなどは生産・販売に向いていない。展示会でバイヤーに買い付けてもらうために派手なカラーバリエーションを用意することだってある。

こういった、人をワクワクさせるための無駄があってこそ、ファッションが産業として持続してきたのであって、これらをなくすことがサステナブルだとは限らない。とはいえ、デザイナーやアパレル企業が、生産工程を見直したり、できる限り売り切るといった覚悟を持って、洋服を作るべきだろう。

シタテルのSPEC(スペック)

SPEC(スペック)(参照リリースはこちら

一方で、無駄のない生産体制と聞いて思いつくのは受注生産。シタテルでは、「SPEC(スペック)」というEコマースでの受注生産パッケージサービスを展開している。在庫を抱えないため、セールや処分を見越した価格の上乗せをする必要もなくなり、ブランドにとっても消費者にとっても大きなメリットだ。しかし、売り切るためにカラーバリエーションを絞ったり、限られた期間での受注分しか作らないのであれば、購入できない(ほしいアイテムがない)という顧客も出てくる。こうした状況に「ないものはない」と正直に言い切れるデザイナーの覚悟も必要だ。

また、下記の記事でメルカリが指摘したように、シェアリングという概念が一般化した時代に、同じ物量でも「服を楽しむ価値総量」を向上させることはできる。そんな時代に新しい服を作る意味を考え、覚悟を持つ必要はあるだろう。

>同じ物量で「服を楽しむ価値総量」を増やす。メルカリが生んだサステナブルな消費文化
https://imag.sitateru.com/inspiration/mercari-market/

売り上げを上げつづける風潮が業界を潰すー「健全な成長」を考える

ALLYOURS代表取締役の木村昌史さん

ALLYOURS代表取締役の木村昌史さん

もっと広い視点で考えれば、モノづくりに限らず、ブランドの経営自体がサステナブルでなければいけないと強く感じる。具体的には、右肩上がりの無理な企業成長は、長期的に見て企業にも消費者にも悪影響を及ぼすのではないかということだ。ファッション業界全体の規模が縮小する中で、全ての企業が成長し続けるなどあり得ないこと。にもかかわらず、前年比割れしない事業計画と、それにしたがった販売計画が立てられることは往々にしてある。誰のためかわからない目標設定によって大量生産した服の多くをセールや在庫処分に回し続けるのは、ブランドも消費者も疲弊していくだけだ。

SNSが普及した今の時代、ある商品が突然人気になって飛ぶように売れることがある。理由はわからないが売れたのだからと増産をかけた結果、売れ残るという事象もある。意図せず売れることは企業にとって必ずしもいいことではないわけで、自社のブランドの「健全な成長」の仕方と、そのためのクリアな顧客接点を理解することは経営のサステナビリティを考える上で、もっとも重要なことだろう

ALLYOURS創業者の木村昌史さんは、洋服が余る要因について「大量生産自体が悪ではない。問題は、誰に買ってほしいのかが明確になっていないこと」と話した。顧客動線をクリアにすることが洋服の売れ行き、ひいては経営の健全化につながることは間違いなさそうだ。

>なぜ服が余るのか?大手アパレルを経たALLYOURS木村昌史のサステナブルへの課題感
https://imag.sitateru.com/inspiration/allyours/

意識だけでは意味がない。嘘偽りのない「オネスティ(素直さ)」な態度で行動し続ける

エシカルファッションプランナーとして活躍する鎌田安里紗さん(左)と、 『LEBECCA boutique』の総合ディレクターを務める赤澤えるさん

エシカルファッションプランナーとして活躍する鎌田安里紗さん(左)と、 『LEBECCA boutique』の総合ディレクターを務める赤澤えるさん(右)

最後に考えたいのは、どうすればサステナビリティが普及するのかということ。ここ数年サステナビリティが話題にのぼることは確実に増えたわけだが、では企業も消費者も、どの程度サステナビリティの実現に向けた行動をとっているかといえば、まだまだ誇れるほどではないだろう。

そんな中でも、H&Mではすでに全アイテムをサステナブルな素材で作るハイエンドな“コンシャス・エクスクルーシブ”コレクションを毎年2回販売しているほか、4000店舗以上で発売する今春のスプリング・コレクションに関しては、はじめて全てのアイテムをサステナブルな素材で生産したといい、2018年時点で使用する素材の57%がサステナブル(もしくはリサイクル)素材になった。コットンに限ればすでに95%がサステナブル素材だという。

>H&MJapan「CSRコーディネーター」が語る日本ならではのサステナビリティ
https://imag.sitateru.com/inspiration/hm-csr/

コンシャス・エクスクルーシブ コレクション

コンシャス・エクスクルーシブ コレクション

世界最大規模のアパレル企業でありながら、むしろ規模の大きさを生かして、本気でサステナビリティの普及に向けて継続的に取り組み、結果がともなっている。そこには、社員全員がサステナビリティについて学び、当たり前のこととして意識が根付いているという背景がある。

そんな環境を実現するために、ブランドや企業はどうすればいいのか。それは、鎌田安里紗さんが赤澤えるさんとの対談で「『何か問題はないかな?』『もっと出来ることはないかな?』と考え続けることそのものが、サステナブル」「組織にいようと、ひとりの人間として気持ちが悪いものづくりはしないし、いいと思う仕組みでやっていくことを諦めない、ということに尽きる」と話していた通り、ひとりひとりが感情に素直になって、考え続けるしかない、答えのない問いなのだ。

>鎌田安里紗×赤澤える サステナビリティは「問い」。自分の心で考え続けること
https://imag.sitateru.com/inspiration/arisakamada-eruakazawa/

サステナビリティへの注目が高まり意識が広がってきた今、ファッション自体が無駄を含んだ“エンタメ”的要素のある産業だという前提に立った上で、「オネスティ(素直さ)」な態度で行動し続けることが必要なのかもしれない。少しでも無駄のないものづくりと正直な情報公開により、消費者とブランド、サプライヤーが「信頼」によってつながっていくような社会。それこそが持続可能な社会で、ファッション業界における「サステナビリティの本質」もそうした部分にあるのではないだろうか。