世界ではヴィンテージ=クールがスタンダード
―本日はよろしくお願いします。小木さんは、増汐さん率いるLOOPが運営する『OR NOT(オアノット)』(デザイナーズブランドのアーカイブアイテムを中心としたECプラットフォーム)のメディアでも登場されていますね。ファッション業界の第一線で活躍される小木さんにとって、「OR NOT」はどう映っていますか?
小木:日本だと、特にデザイナーズは昔からセカンドハンド文化があるじゃないですか。ただ、古着を買うのはお金がない人で、ちょっと恥ずかしいというイメージがまだ強いと思うんです。でも、海外だとセレブ向けにブランドヴィンテージをそろえてアポイント制で買ってもらっていたり、ラッパーが昔のデザイナーズを着ていたり。
―ヴィンテージがクールだと。
小木:そうそう。ただ、日本ではなかなかそれが浸透してきていない。セカンドハンドでブランディングをやっているところがほとんどないからだと思うんですよね。大手だと多分、RINKAN(リンカン)くらいじゃないでしょうか、そこを変えようとしているのは。ECサイト内でブランディングしながらデザイナーズ古着から新品までを一挙に取り扱うという発想が今までなかったので、それをやっている「OR NOT」はすごく面白いと思います。実は、海外の人たちが欲しいデザイナーズ古着って、日本には地方も合わせて山ほどあるんですよ。
―彼らは古着を着ることに抵抗がなく、むしろ古着によって楽しみの幅が広がるような感覚ですか?
小木:そうですね。僕は海外の人から教えられました。以前から海外の人は日本に来たら普通にセカンドハンドのお店に行ったりするんです。去年、お忍びでカニエ・ウエストとキム・カーダシアンが来た時にセカンドストリートに行っていて、そういう流れが面白いなと。ただ、古着とのミックスで外すっていうのは日本独特の感覚だと思いますし、僕はもっとその日本人の感覚を磨いていくべきだと思っています。
―古着も交えてファッション自体を楽しんでいるんですね。
小木:そうです。一次流通においても、これから夏だというタイミングで夏物のセールが始まるなど、決められた仕組み自体に違和感をもつ顧客もいると思うんです。
―トレンドに乗っかってどんどん消費するのが本当に良いのか、とか?
小木:そうですね。20代前半の若い子と話したりすると、バレンシアガのようなデザイナーズブランドの次のブランドを探しています。みんなが着ていると逆に恥ずかしいみたいな感覚があるようでして、RAGTAG(ラグタグ)やRINKANとかに行って、昔のデザイナーズ古着を買う子も多いんですよね。
新品と古着の溝はなぜ埋まらないのか
―一方で、二次流通のブランディングを意識してきた『OR NOT』としては、どんな課題感を感じていますか。
増汐:先ほど小木さんもおっしゃってましたが、二次流通ってまだまだ海外のトレンドとは逆行していて、ダサいとかお金がなくてみたいなイメージを持たれている方々が一定数いるのは事実だと思うんです。だからこそ、洗練されたイメージにしっかり作り込み、表現することを『OR NOT』では強く意識しました。
―古着でもちゃんと格好よく見せられるように。
増汐:そうです。ECとメディアの両方の部分を持ちファッション業界の方々にアーカイブの魅力を語り、伝えてもらっています。ファッションはどうしても人に付く部分ってあるじゃないですか。たとえば、小木さんのようなファッションアイコンの方がアーカイブを着ているのを見て、初めて興味を持つということもあります。。なのでECで商品をただ並べるだけではなく、メディアとしていろいろな方に話を聞いて発信しています。
―啓蒙に近いイメージですね。
増汐:そうですね。イメージを変えていきたい。二次流通業界では小さい企業が結構多くて、単体で業界のイメージを変えるのは難しいんですよね。そこで、私達が旗を振ろうと考えたんです。
―『OR NOT』は、二次流通の企業とブランドと、両方付き合いがあると思うんですけど、そこで感じるギャップや課題感はありますか?
増汐:ブランドの人たちはみんなアーカイブ商品やマーケットに関心があるのに、企業としては現時点では二次流通に対して距離がありますよね。
僕は、ブランドのロイヤリティーが高い人って、新作を毎シーズン買っている人だけではないと思っています。そのブランドの名作から入ってくる人もいれば、昔からずっと好きなんですって人もいる。でも、実はここの層ってあんまりちゃんと数値化して見えていないんです。我々はECで今後しっかりデータを取り、本当の意味でのロイヤリティーが高い人を示して、ブランドとの距離を近づけていくことができると思っています。
―ファッションが好きな人って、古着も差異なく同じ服として見ている印象はあるんですが、ブランドやショップからすると距離感がある。そこになぜギャップが生まれてしまうのでしょうか。
小木:でも、昔より壁はなくなっていると思います。(アーカイブを取り上げることの多い)HYPEBEAST(ハイプビースト)やHIGHSNOBIETY(ハイスノバイエティ)のようなサイトが世界的に認知度を得てきたことも理由の一つだと思います。まずは認知してもらうことがブランドにとって大切なことで、ブランド側がアーカイブを通じて認知度を高めるという方向に移ってきているんじゃないかと。
あとは最近、Vivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)の映画やマルジェラの回顧展のようなものも多い。やっぱり昔のCOMME des GARCONS、YOHJI YAMAMOTOのように今でも活躍されてるデザイナーの80年代とかの古着を見ていると迫力がすごいんですよね。
―ものを見ればわかると。
小木:いろんな思いとか魅力がやっぱり詰まっています。あとは国内外の若い世代によって再燃している90年代〜00年代の日本のA BATHING APE(ア ベイシング エイプ)やNUMBER (N)INE(ナンバーナイン)、UNDERCOVER(アンダーカバー)は、今、デザイナーのヴァージル・アブローが主流にしている“音楽的な作り方”で洋服を作り始めた第一世代で、アイデアや作り方がすごく面白い。実際のものを見て学べるということは大切だと思います。
あと、お直しの技術もだいぶ進んでいます。僕も今日、トムフォードがデザイナーだった時のGUCCIのジャケットを着てきたんですが、古着屋で大きいサイズのものを見つけたんですよ。着丈と袖だけ詰めてルーズなジャケットのように着ています。
―「そういう着方もありだよね」っていう。そういう人も増えているんですか?
小木:増えていると思いますね。原宿にfenice closet(フェニーチェクローゼット)っていうお直し屋さんがあるんですけど、その店は昔のARMANIとかのいろいろな着方も提案してくれます。
―そういうところで実際にリメイクをして、ヴィンテージなんだけど自分に合った形で着ているんですね。少しずつ古着の楽しみ方が一般的になってくるのかもしれません。