余白をつくり、ユーザーに育ててもらう服
名札を入れられるポケットT、袖を着脱できるシャツ、サコッシュやポーチを自由に装着できるコートなど、PORTVELのアイテムは一見ファッショナブルながら、様々な機能が搭載されている。 ブランドコンセプト「Heritage & Newage」には、それらの機能に対するデザイナー・濱田氏の思いが込められている。 「僕たちって、いろんな過去のアーカイブから着想を得てものを作っているわけですが、僕らの洋服も世の中にリリースされた時点で、”Heritage(遺産)になります。けれど、その服に様々な余白を与えることによって、さらに買ってくれたエンドユーザーの方が”Newage”にしてくれる。”育てる服”とも言えますかね」(濱田氏) 今季のコレクションは、「LIFE OF SPACE HABITAT」をシーズンテーマとして、構想を広げた。架空の宇宙空間での生活において人々はどんな服を着るのだろうか、地球でのアーカイブを基に宇宙ではどんなNewageが生まれるのだろうか、という仮定と理想から、新しいプロダクトを創造した。 PORTVELにとっての「機能」においては、”機能性”はひとつの要素に過ぎないと断言する。便利であるという機能性のみならず、装飾性や自在性を備えていること、それこそが彼らの「機能」だということだ。
服に使われていない素材や技術を探して実験する
PORTVELのアイテムは、寝袋やレジャーシートの素材など、普段ファッションシーンでは目にしないような生地が使われていることも特徴だ。 「例えば福井県の合成繊維の工場さんって、ヨットの帆を作っていたりするんです。そういった産業資材や工業資材を探し出して、服に使えないかっていろいろ試してみますね。生地屋さんには驚かれますけど(笑)」(濱田氏) 今季、アイコンとなったシースルーの開襟シャツには、「シルクスクリーンの網」を使った。 「普通にいまトレンドのオーガンジーを使うのでは面白くない。いろいろと探している中で、シルクスクリーンのスクリーン部分に着目しました。残るインクをそのまま柄にしてシャツを作ってみたら意外に良くて。いつも、デザインに当てはめるための素材を探すというよりは、素材からスタートすることが多いです」(濱田氏)
まだ誰もやっていないイノベーティブな服づくり
「いつも、他がやってないことをいかに実現するか。実験みたいな感じですね。例えば、シームシーリングの工場などに出入りすることもありますが、大手のスポーツメーカーがやる王道の使い方ではなくて、もっとファッショナブルな使い方ができないか考えます」(濱田氏) 通常のファッションでは使われない仕様や素材、技術などを盛り込んだプロダクトだからこそ、ものづくりはそう簡単にいかないことも多い。型数も増え9シーズン目となった今季からは、シタテルで量産をスタートする予定だ。 「複雑になればなるほど、工場に情報がきちんと共有されていることが大事。シタテルでは窓口がひとつになるので、それはいいところですね。 誰も作ったことのないものを作っているからこそ、不安は大きいです。形になるまでのプロセスが長いので、サンプルが上がったとき一番嬉しいですね」(濱田氏) 毎シーズン新しいものづくりへの挑戦をする中で、次第に評判が広がり、BEAMSなど取扱い店舗も増えてきた。今後は、日本人だからこそできるものづくりで、海外に勝負をかけたいと意気込む。PORTVELのイノベーティブな服づくりは、世界にNewageを生み出し続けていくだろう。