スニーカーショップをやるつもりはなかった
―「PLAYGROUND」は2018年6月にオープンしたそうですが、まずお店を始めた経緯から聞かせてください。
松本:最初は自分たちが気になるものをいろいろと扱うセレクトショップでした。僕たちが普遍的にかっこいいと思うものをジャンル問わず置いていた感じです。最初はスニーカー専門でやろうというコンセプトは全くなかったんですよ。それを何年くらいやりましたっけ?
草賀:どうだろ? 一昨年の12月くらいまでだから、1年半くらいはいろいろやってたのかな。
―そうだったんですね。「PLAYGROUND」はユーズドのスニーカーをしっかりキュレーションするお店というイメージだったので意外です。
松本:まず元々の話をすると、この物件自体は僕たちがデザイン事務所として借りていて、その頃から一階は路面店として何かやりたいなとは思っていたんですよ。で、草賀さんとは昔からワンエルディーケー(1LDK)というセレクトショップの仕事を通じてお互いよく知っていて。
松本:草賀さんとはプライベートでもいろんな話をする仲だったんです。草賀さんは僕より年上なんですけど、すごく気さくな性格の方で、すぐ馬が合った訳ですよ。
―なるほど。お二人のその雰囲気は伝わってきます。
松本:なおかつ好きなものや通過してきたカルチャーも共通していて。洋服や音楽の話など「あの時、こんなの流行ってたよね?」という会話がぱっと通じるような相手なんです。ビジネスの話もちゃんとできる方なので、「これはもう一緒にお店やりましょうよ」という話になって。
草賀:要は二人で「こういう店あったらやばくない?」みたいなことを延々と言い合っているうちにできた店です(笑)。
ナイキのダンクに絞って再スタート
―オープン当初の形態から、なぜ現在のようなスニーカー専門店に切り替えたのでしょうか?
松本:1年ちょっとやった時点で草賀さんと店をやるという僕の気持ちはある程度満足したんです。次はもっと自分たちのセンスを発揮できることがしたいという欲が出てきたんですよね。そこで、草賀さんと自分が組む意味の最大化を狙えるポイントはどこかと考えた結果がスニーカーでした。
草賀:結局、営業している中でもスニーカーの反応が一番よかったんですよね。僕自身、ファッションアイテムの中で一番好きなアイテムだし、自分なりにずっと掘り続けていたのがスニーカーでした。わりと同じタイミングで僕もそう考えていました。ある意味、店としては新しいスタートだったよね。
松本:とにかく草賀さんのスニーカーに対する知見はすごく広いし、個人で何百足も持っているような方なんです。特にナイキに関してはすごく詳しい。ひと口にスニーカーと言っても、草賀さんとやるなら面白く取り扱うことができそうだぞと。
ーお二人にとっての新しいお店のイメージが一致していたと。具体的にどんなやり方で再スタートされたのでしょう?
松本:漠然とかっこいいと思うスニーカーをすべて取り扱ってしまうと、店の印象が薄くなってしまうじゃないですか。なので、やるなら品番絞りましょうよと。取っかかりとして、まずダンクだけをたくさん集めてみたんです。
草賀:忘れもしないですよ。松本さんと中目黒で飲んだ時に「ダンクだけ集めてやってみようと思うけどどう?」って、話をして(笑)。今みたいに人気に火がつく少し前でした。
―え、その頃にダンクってたくさん集められるようなモデルだったんですか?
草賀:それが2019年くらいはまだとわりと簡単に集められたんですよ。今だと高値で取引されているモデルが数千円で取引されていたこともありました。そういうのを見つけたら、とにかく全部買ってインスタにアップすると好きな人が集まってくれて。じゃあその次はナイキのリバデルチだけ集めてみようとかね。そういうことをやるスニーカーショップって、あまり他になかったんですよ。
PLAYGROUNDが掲げる3つのラインの魅力とは?
―次にPLAYGROUNDの3軸であるリユース・アップサイクリング・デベロップメントについても教えてください。
草賀:スニーカーって日々新しいモデルがリリースされる中で、その時々に出たモデルの存在って、わりとすぐ忘れられてしまうんですよね。そんなスニーカーをうちでは「リユース(REUSE)」と呼ぶラインの中でピックアップしています。というのも、2次流通の市場で「これ、こんな値段で投げ売りされるようなモデルじゃないんだけどな…」と思う機会が多いんですよ。「これ、やっぱりかっこいいんだぜ」ともう一度スポットライトを当てるのも僕らの役割なのかなと思っています。
―確かにスニーカーのリリース量は多いので、どうしても昔のモデルは忘れがちです。
松本:そうですよね。そして、そんなリユースのスニーカーを集める過程で、ちょっと手を加えればまたニーズが出てくるんじゃないかという発想で生まれたのが「アップサイクリング(UPCYCLING)」です。中古のスニーカーというのはそもそも必要とされなくなったから手放されてしまっているわけですが、少し手を加えることでまた欲しいと思ってもらえる一足になるんですよ。
草賀:うちのアップサイクリングが一気に認知されるきっかけになったのはエアフォースワンにフリーロックというパーツを付けた一足です。完成度が高いデザインなのは間違いないけど、実際はちょっと飽きてきたりもするじゃないですか? 「持っているけど最近履いてない」という人はちょっとカスタムしてみて、気分を変えてくれたらなと思うんですよね。
ー黒や白のエアフォースワンは持っている人も多そうですよね。
草賀:そうそう。また履いてもらえる機会が増えるなら、エコな話でもあるかなと。そもそもパーツ自体が工業製品的でかっこいいですし。〈プーマ〉のディスクブレイズを筆頭に、ディスクシステムを採用しているモデルもたまにあるんですが、大体デザインが強いんですよね。もっとシンプルなデザインのアッパーに付けてもいいのにとずっと感じていたんです。別にすべてのスニーカーが紐である必要はないですし。
松本:で、リユースやアップサイクリングのラインのためのスニーカーを探していると、「もうこのモデルはあまり集められなくなったね」とか「状態のいいものがあまりないね」とかが当然出てくるんです。だったら草賀さんは元々靴のデザインもできる人だから、うちでセレクトするリユースのスニーカーと親和性が高いオリジナルを作ろうと。それで始めたのが「デベロップメント(DEVELOPMENT)」というオリジナルのラインでした。
ー確かにずっと同じモデルを集め続けるのは難しそうです。デベロップメントの開発で気をつけているところはあるのでしょうか?
草賀:ひと言で言うと、“いい違和感”があるかどうかですね。なんとなく見たことあるんだけど、実際は見つからないなっていうバランスを意識しています。というか、スニーカー好きの僕がやっている時点で、そういうもの作りにならざるを得ないんですけど(笑)。
松本:その中で僕の役割は一種の交通整理。リユース、アップサイクル、デベロップメントという3つのラインを設けるというコンセプト作りもそうですし、「草賀さん、このラインではフリーロックは使っちゃダメですよ」などを調整しています。情報って整理しないと人に伝わらないので、お店の魅力の最大化を図ることには気を使っていますね。
PLAYGROUNDの根底にある“合理性”
ーそもそもリユースのスニーカーをセレクトする発想しかり、それをカスタムする発想しかり、お二人には元々すでにあるものを使おうという姿勢を感じます。
草賀:まあそれはあるよね。
松本:確かに、無理やり何か新しいものを作ろうとはお互いあまり考えないですね。サステナブルという言葉こそ使っていませんが、あるものでやろうということは最初から草賀さんと共有していました。スニーカーだったら、リユースできるものが世には溢れているからそれをピックアップするほうがいいよねという意味では、2人とも合理的かもしれません。フリーロックのように機能的なものに惹かれるところも似ていますし。とはいえ、人間って必ずしも合理性だけでは動かないので、そこに直感的に楽しいと思うものも混ぜるようにしています。なので、うんちくは二の次にして、お客さんには直感的に楽しく、かっこいい靴を選んでほしいですね。