オフィスに”集まる”ということの本質的な意味
横石:Facebookオフィス、ものすごく広いですね。ひとつの町みたいですよね。
山下:そう、ワーカーには周辺に住むことも奨励されているようです。イノベーションのためには、とにかく「集まる」ことが大事だと。
今の論調だと、イノベーションを狙うんだったら、集まってコミュニケーションの量を増やすのが大事という考え方が広がっていますね。旧来のシリコンバレーは在宅ワークが主流でしたが、今はオフィスに長くいることが大事とされています。
オフィスに集まっているとリモートワークと違って、突然話しかけられたり自分ではコントロールできないコミュニケーションが起こります。そこに偶然の気づきなどが生まれて、イノベーションに発展するということです。
横石:GAFA(Google,Apple Facebook Amazon)あたりは、揺り戻しの潮流がありますよね。日本でもそうしていくべきなんでしょうか?
山下:いや、むしろ日本のオフィスってすごく集まっていると思います。毎日ほとんどの社員が定時に出社して、夜遅くまでオフィスにいる。上司が帰らないと帰れないみたいなこともあったり(笑)海外の企業よりよっぽどオフィスに塩漬けにされています。
横石:たしかに(笑)そこは課題ではないんですね。
山下:そうです。集まっても創造的な会話があるか、というところにメスをいれるべきかと思います。ひとつのヒントになる考え方が、IDEOのトム・ケリーが提唱している「Creative Confidence」です。創造的になるためには、自分の創造性に自信を持つべきと。パッと思いついたアイデアを、すぐ人に話す勇気があるかどうかが大事なんです。
実は、Adobeによる「世界で最もクリエティブだと思う国」のアンケート結果によると、日本は1位に選ばれているんですよ。なのに、自分たちは全然自覚してない。そういった文化的な側面から変えていくべきかもしれません。
横石:世界には認められていると。もっと自信を持つべきですね。
山下:集まるという話でもうひとつ抑えておきたいキーワードが「コンテクストカルチャー」です。ものごとのルールが予め文章などで規定されず雰囲気などで決まるのが「ハイコンテクストカルチャー」。逆に、ルールが文字通り解釈されるのが「ローコンテクストカルチャー」です。
先程例に出した最近のGoogleなどは、柔軟性があって高いレベルのコミュニケーションを求めているのでハイコンテクストカルチャーにしようとしているわけです。日本は元々ハイコンテクストカルチャーですが、働き方改革で進められているテレワークなどをするのであれば上司の顔色を伺わずにすむローコンテクストカルチャーも必要になってきます。
横石:僕はフリーランス的な働き方をしているので、なんとなく空気で定時に出社してずっと会社にいるみたいなハイコンテクストカルチャーは肌に合わないです(笑)今の日本の若者も、そういう価値観をもつ人も増えてきているのではないでしょうか。
客観的なデータと感性のデザインで、共感を得られる職場デザインを
横石:もうひとつ、僕が気になっていたテーマが「2つのD」です。これはDataとDesignですね。
山下:そうです。これから日本でも多様性が進むとなると、職場のデザインを考える上で、いろいろな衝突が起こってくると思うんですね。会社のふわっとした「空気」で決められなくなる。つまりローコンテクスト化していくわけです。そういった時、指標のひとつとなるのが、客観的な「データ」ではないかと。
一方で、多様化したカルチャーの中で、みんなが共感できるものを作るためには、最後は感性に訴えかける「デザイン」の思想も大事だと考えています。
横石:なるほど。オフィスからデータってどうやって取るんですか?
山下:例えば最近、スマートビルみたいなものも出てきていますね。オランダのデロイト本社は、ビル全体に2万8000個のセンサーがあって、社員の行動パターンがデータ化されているんです。
そうすると、若い人とシニアの人、男性女性など、人によって動きが違ったり、働き方が違うということが分かってきます。組織の働き方ビッグデータが取れるわけです。
横石:それは、個人情報を会社のマネジメント側に監視されたり牛耳られる、ということではないですよね。個々の社員が、自分がこんな行動パターンを取っているんだと自覚して、働き方の主体性を取り戻すためのデータということが大事。
山下:そうですね。これまで全然分かっていなかったことが明らかになって、働き方のあるべき姿みたいなものが見えてくるのではないかと期待しています。
横石:案の定、パネルのキーワードがずいぶんと残りましたね(笑) 続きはまたやりましょう。
トークイベントの中で、オフィス依存度の高い働き方をしてきた日本企業がイノベーションを生み出す職場を創るために必要とされることが、いくつか見えてきた。社内外を繋ぐエコシステムを作るための「殻の柔らかい」オフィスづくり。仕事場を自分のものにできるハッカブルな設計。多様性を抱擁するための、客観的データとデザインの力。そして、オフィスに集まるなら、自分のクリエイティビティに自信を持ち、アイデアを積極的に発信していくというカルチャーづくり。
何よりも大切なことは、働く人は仕事場を「与えられるもの」ではなく「自ら最適にしていくもの」と捉え、企業側は職場を含めて「選ばれるもの」としてより良くすることだと感じた。