日本では就職ではなく「就社」。だから職場環境に対しても受け身

WORKSIGHT

銀座 蔦屋書店の一角で行われた「GINZA WORKSTYLE LAB」。ワークスタイルと多様なテーマを掛け合わせ、働き方とその未来を構想するイベントシリーズとしてスタートした。

ファシリテーターには、毎年11月に開催される”働き方の祭典”「TOKYO WORK DESIGN WEEK」の代表・横石 崇氏。今回は、「ワークプレイス×ワークスタイル これからの『仕事場』」と題して、WORKSIGHT編集長の山下正太郎氏がゲストとして呼ばれた。

(以下敬称略)

山下:「WORKSIGHT」は、世界中の様々なオフィスをメディアとしてまとめています。30ヶ国50都市くらいのオフィスを実際に自分の足を運んで見てきたので、どんな国でどんなことが起こっているか、ある程度把握しているつもりです。その中でも、日本の方に知ってもらいたいことをまとめている雑誌です。

WORKSIGHT編集長 山下正太郎氏

横石:こちらですね。蔦屋書店でも販売開始ということで、今日はその記念的なイベントにもなればと思っています。

日本でも注目されつつある「働く場」ですが、世界ではどのくらい関心が持たれているんですか?

山下:そもそも考え方が違いますね。日本では、会社で働くということに対して、ある意味「就社」とも言える考え方です。その会社のメンバーシップに所属するイメージですね。そしたら職場環境も、「与えられるもの」になってしまいます。

反対に、海外は「就職」。ワーカー側に職場環境を選ぶ主体がある。だから会社側も、いい環境を整えないといい人が集まらないという意識があります。

「TOKYO WORK DESIGN WEEK」代表・横石 崇氏

オフィスの外側の殻を柔らかくして、エコシステムをつくる

横石:さて今日は、「これからの仕事場」を中心に9つのトークテーマをパネルとして持ってきています。全部はお話しできないと思いますが、どれからいきましょうか。まずは会場の方に聞いてみましょう。

トークパネル

会場:関係人口で。

横石:いきなりここ来ましたか(笑)これは、地方創生の文脈で使われることが多いワードですよね。

山下:そうなんです。例えば、過疎化が進む村があったとします。そこに突然移住することって難しいですが、寄付してみるとか毎年遊びに行くなどの形で、少しだけでも関わる事ができる人を増やしていきましょうというのが、基本的な関係人口のコンセプトです。

働き方に翻ると、日本のイノベーションにとって非常に重要な概念だと思うんですね。

例えば、パリのど真ん中にできた大型インキュベーション施設「Station F」は、海外からスタートアップを誘致したい狙いがあります。パリなら、移住して起業するというのも考えられますね。

一方、日本は極東とも呼ばれる欧米から見れば遠い場所ですし、英語人口も少ないし、世界から見たら独立した”田舎”的な存在と言わざるを得ません。わざわざ海外からイノベーションを起こすようなスタートアップが突然来ることは簡単なことではありません。

ですが、観光と定住のあいだくらいの中期滞在があれば関係人口になり得る。企業と組織の壁を超えた、有機的な関係である「エコシステム」をつくるのが大事なんです。

例えば、「Roam」という中期滞在者向けの住宅とコワーキングスペースを合わせた「コーリビング型」のサービスがあります。こういうものが日本にも増えると、関係人口も増えていくのではないかと思っています。

横石:ちなみに、オフィスの関係人口を増やすという観点だと、どういった工夫の仕方がありますか?

WORKSIGHT編集長 山下氏

山下:抽象的な言い方ですが、うまくやっている企業は、外側の殻が非常に柔らかいですね。

日本のオフィスって、外と内を分けるセキュリティが堅くて、中に入るとゆるい。逆に、海外の先進オフィスに行くと、外部の人と接する外の殻がやわらかくて、守るべき中心は堅いようなところが多いです。

日本でも少しずつそういったオフィスも増えています。例えば、Yahoo!の「LODGE」は、身分証明書さえあれば誰でも入れるフリーなコワーキングスペースです。ガイアックスの「GRID」も全館ほとんどコワーキングエリアです。

海外だと、特に労働人口の流動性が広がっていますから、物理的なセキュリティが意味をなさなくなっているということもありますね。日本もそろそろ考え直す時かもしれません。

横石:コクヨさんのオフィスはどうなんですか?(笑)

山下:そうですね…(笑)これまでもコクヨは、外部とのパートナーシップで成長してきたということもあって、意図的にひらけたオフィスにしようとしていますね。

整然と管理されたオフィスからイノベーションは生まれにくい

トークイベントの様子

横石:そういえば、オフィスではないですが、最近この近くにできたGinza Sony Parkも、街にひらけた空間ですね。なんにもなくて、余白だらけなんですよ。

山下:今日のパネルでいうと、「ハッカブル」に繋がりそうですね。

横石:おお、ハッカブルの話聞きたいです。

山下:ハックできるという意味ですね。「Hack(ハック)」って、ネガティブなイメージもありますが、言い換えれば「自分のものにする」ということです。実は、最近の空間づくりでとても重要な概念で、自分で空間をハックできる状態が、創造性を高めてイノベーションを生み出す鍵とも言われています。創造性を豊かにするための「意図的な余白」を創ることが大事なんです

Facebookのシリコンバレー新社屋は、意外と雑多で、自由にというか多少乱暴に、自分のデスクのしつらえを変えられるような仕様になっているんです。

横石:ずっとベータ版であり続けるということですね。

山下:整然と管理されたオフィスに行くと、人間はおとなしくなってしまうんです。みなさん、もしかしたら自分の職場が本当に汚くて、こんなところでイノベーション起きるのかと思うことがあるかもしれませんが、「自分のやりたいようにやっている状態」というのは実は大事なんですね。

 

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