障がい者から見たアパレル商材はこんなに使いにくい
イベントの最後には、車椅子タレント・モデルの梅津絵里さんが登場。守山さんとYKKファスニング事業本部の嶋野雄介さん、sitateruガーメンツプランナー冨山雄輔とともにトークセッションを行った。
「Co-Co Life☆タレント部」に所属する梅津さん。28歳の時に全身性エリテマトーデスを(SLE)を発症し、6年間の入院生活を経て車椅子になった。患い今も車椅子生活を送る梅津さんは「いつもオシャレをしたいのですが、車椅子を腕で漕ぐため、白いお洋服だとタイヤに当たって汚れてしまうんです。また、デニムが好きなんですが、つねに座っているのでローウエストだと背中が出てしまって。トレンドとは異なる視点で洋服を選ばなければいけません」と悩みを吐露。
梅津絵里さんも出演した、YKKユニバーサルデザインファスナ
これを聞いたYKK嶋野さんは「そうした意見は知られていないことが多いと思います。手が不自由な方などにclick-TRAK®の試作品を使っていただく機会が幾度もありましたが、その度に衣類に関して思いもよらない困りごとがあることに気付かされてきました。実際に使われる方と会話することが大事だとあらためて思います」と話す。
守山さんからの「ファスナー、好きですか?」との質問に梅津さんは「病気の影響で手がうまく動かないので、正直、嫌いですね(笑)」と一刀両断。YKK嶋野さんもこれには「ファスナーは当たり前に生活の中にあるという感覚が強く、ファスナーがあることがネガティブな要素になるというのはあまり考えたことがありませんでした。自分で閉められないから嫌いだという話を聞くと、そういう意見があるということを真摯に受け止めなければいけないと感じますね」と答えた。
今後のアパレル業界でユニバーサル・デザインはどう浸透していくかという問いに対しては、嶋野さんが「アパレル業界は細分化されたニーズに応えていこうとしており、ユニバーサル・デザインも特別なものとしてではなく当たり前にどんどん取り入れられていくべき」と回答し、冨山さんも「どんなテイストの洋服が好きか、ブランドはどんな洋服を作るのか、自分にとっての『着やすさ』を消費者それぞれが考えられるといいと同じようにユニバーサル・デザインの商品が広まっていけばいい」と答えた。
最後に、梅津さんがアパレル業界に期待することについて、「商品研究の段階で、当事者たちの声をたくさん聞いてほしいと思います。ユニバーサル・デザインが当たり前になれば、わたしたちもリーズナブルな価格でいろんな洋服が楽しめる。また、お店でも商品を並べる際に車椅子の目線を気にしてみたり、ウェブサイトの着用画像も車椅子の人に向けて座った場合の写真を載せるなど、できることはいくらでもあると思います。モデルが必要になれば私をぜひお願いします(笑)」とコメント。嶋野さんも「ファッションは、デザイン一つで人を助けられる部分がある。デザインが重要な要素であるファッション業界こそがユニバーサルというコンセプトをリードしていくべき」と提言した。
こうして2時間のイベントは盛況のうちに終了したが、何より重要なことは、ファッションにおいて、全員が着やすいユニバーサル・デザインの洋服は存在しないということだろう。だからこそ、あらゆる人びととの対話を通じて、少しでも多くの人が心地よく着られる洋服を作ることはファッション業界の責務といえる。S/ M /Lというサイズ展開により量産を可能にしたアパレル業界も、いま改めて消費者1人1人の身体の「微細な違い」について興味を持ち、繊細に商品作りをすることを考えるフェーズに来ているのかもしれない。
まずは多様な身体の人々と会話をすること、そして障がい者モデルの広告やショーへ起用など、可能な範囲で消費者・生産者の誰もがユニバーサル・デザインについて考えるきっかけを作ることも、ファッション業界がなすべきことなのではないだろうか。