―近年の鉄道制服に傾向はありますか?
近江氏:会社ごとにオリジナリティを打ち出しているパターンと、ベーシックなものにワンポイント工夫を入れるパターンで二極化しているのかなと思います。ワンポイントの工夫というのは、ボタンをちょっと変えるなどですね。
―テイストとしてはカジュアル寄りでしょうか?それともトラディショナル寄りでしょうか?
近江氏:そうですね、よりサイズ感があってるものというか。もちろん会社にもよると思いますが、綺麗めに着こなしている方が多いように思います。あまり崩したりせず、きちんとボタンを閉めてネクタイをするなどですね。
―あまりタイトめではないのでしょうか?
近江氏:現場のみなさんは腕を伸ばしたり屈んだりするのであまりタイトではないです。ただ昔は着崩している方もいらっしゃったので、それに比べると今はきちんと着こなしてる方が多いかなと思います。
―「鉄道制服図鑑」に掲載されている鉄道会社の中でも、デザイン的に特徴的な鉄道会社はありますか?
近江氏:富山地方鉄道さんは結構珍しいと思います。グレーにオレンジのネクタイというのはなかなか見ないですね。一般的に、紺色や黒が多いので。
―デザイン以外のディテールや縫製など、細部にこだわっている会社はありますか?
近江氏:ボタンや帽子のマークなどは各社のこだわりが出る部分ですね。そういった部分を変えているのは、「鉄道制服図鑑」をやるまで知らなかったので、改めて発見がありました。
上記のようなスタイルの日本の鉄道会社の制服は、果たしてユニークなのだろうか。海外の鉄道会社や国内他業種の制服との比較を聞いてみた。
―日本の鉄道会社と海外の鉄道会社では制服に違いがあるのでしょうか?
近江氏:海外はそこまできっちりしていないので、着こなしもラフなのかなと思います暑さとか気候とかにもよるのでしょうけど、アジアの国ではポロシャツを着て駅で切符を売ってたのを見ました。日本の方がきちんと着てるというのはあると思います。
―鉄道会社はサービス業ですが、飲食店やカフェ、ホテルといった他のサービス業と比較してどうでしょうか?
近江氏:鉄道会社の制服はホテルの制服に近いと思います。ホテルのフロントの方や駅員さんはどちらも会社の顔ということ、衣食住の分野で、安心安全であることが求められると思うので。どちらも見た目は大事な部分ですね。
―シタテルでは飲食店やホテルのユニフォームをカジュアルにシミュレーションして制作するカスタム(https://cstm.sitateru.com/)というサービスを行っているのですが、鉄道会社の制服はフルオーダーに近い形でやられているような印象を「鉄道制服図鑑」から受けました。実際はどうなのでしょうか?
近江氏:会社によって結構バラバラです。大手の鉄道会社さんはベースボディがあったりしますが、地方の中小民鉄や第3セクターはあまり制服にお金をかけられない。なので、ボタンだけを変えたり、ラインに特徴を持たせるなど、細かいカスタマイズだけになっていることが多いです。
制作プロセスは2極化していると思います。こだわってできる会社さんとできない会社さんがどうしてもあるので。フルオーダーに近い形でやるのはやはり地方の鉄道会社さんだとなかなか難しいので、帽子だけ新調してちょっと雰囲気を変えるなどされている印象です。
現在も多くのファンを抱える鉄道ファンダム。その中で制服の立ち位置とはどのようなものなのだろうか
―制服は大体何年ごとにリニューアルするのでしょうか?
近江氏:会社さんによると思います。ただ、リニューアルしてもデザインはあまり変わらないのではないでしょうか。例えばJR東日本さんは東京オリンピック2020を機にデザインを一新していますね。関東鉄道さんは設立100周年でリニューアルしていますね。
ー制服を入口にして鉄道ファンになる方は結構いるのでしょうか?
近江氏:あまりいないかと思います。鉄道ファンの方は車両が好きな「撮り鉄」や、旅が好きな「乗り鉄」が多いですね。その派生で、お酒飲むのが好きな「呑み鉄」、音が好きな「音鉄」などもいらっしゃいますが、「制服鉄」はかなり鉄道ファンの中でもマニアックですね。
制服は勤務中の方が着ているものなので、勝手に撮影したら駄目なんですよ。勝手に撮ると盗撮になってしまいます。
だからこそ「鉄道制服図鑑」で制服を1冊にまとめたことで、鉄道ファンの方にじっくりと見てもらい、「こういうデザインだったんだね」といったコメントをいただいたりしましたね。
最後に「旅と鉄道」編集部の近江氏に、デザイン面にフォーカスした鉄道制服のランキングベスト5と、「鉄道制服図鑑」制作時のエピソードを語っていただいた
「鉄道制服図鑑」を作ったときのエピソードはありますか?
近江氏:各鉄道会社さんに企画書を送って「こういう本を作りたいから、写真があれば送っていただいて、無ければ撮ってください」という無茶振りのようなお願いをした中、快く対応いただけました。「鉄道制服図鑑」の書籍を見ていただけると分かるのですが、お仕事の前後に運転士さんを撮っていただいたりしています。トルソーに着せて、同じ条件で撮るのもいいかも知れないですが、実際にどのように着こなしをしているのかが分かるという意味で鉄道会社さんの色が出た本になったのではないかと思います。