世界を見据えて日本の服づくりにイノベーションを
日本の繊維・ファッション産業のサプライチェーンは欧米に比べると非常に複雑だ。経済産業省はそんなアパレル産業に新たなイノベーションを起こすため、ITプラットフォームデザイナーと産地の連携を図る「服づくり4.0プロジェクト」を実施した。 株式会社ローランド・ベルガーがコーディネートを行い、デザイナーズブランド「junhashimoto」のコレクションを、衣服生産プラットフォーム「sitateru」を活用して制作。そして、その成果をjunhashimotoの2017AWコレクションとしてAmazon Fashion Week TOKYO 2017 A/W で発表した。
イタリアの美意識を日本の「粋」の精神を通して表現
junhashimotoは「デザイン性と機能性の融合」を提案するファッションブランド。デザイナーの橋本淳(junhashimoto)氏がイタリアで培った美意識を、日本の「粋」の精神を通して服で表現している。 毎年のコレクションは「粋」をテーマに、相反するイメージを掛け合わせて表現される。「柔と剛」「光と影」など、そのメッセージは見た目だけでなく、服を着るその人本来の「実用的な美意識」を引き出すことを目的としている。デザイナー自身が納得いくまで、つくりにこだわる大人のリアルクローズブランドだ。
クリエーションの可能性を広げるテクノロジー
今回、「服づくり4.0」のプロジェクトとして、Amazon Fashion Week TOKYO 2017に向けたコレクション制作の一部をsitateruのプラットフォームで進めた。コート、ジャケット、パンツ、シャツ、カットソーなど、アイテムは様々。プロジェクトの中でjunhashiomotoがチャレンジしたのは「スーパーカジュアルとスーパークラシックの融合」だ。 たとえば、カジュアルな厚手のチノ素材を使ったフォーマルなジャケットを、0番ステッチとAMFミシンを使って仕立て上げた。0番ステッチは、タコ糸ほどの太い糸で縫うステッチで、通常デニム工場などでしかできない。 一方、AMFミシンはスーツに使う手縫い調の仕上げ方で、いわゆるテーラーやスーツ工場で使われる。普段全く違うアイテムで使われるこの2つの技術をどちらも持っている工場は少ないが、sitateruのデータベースから両立できる工場を探すことができ、クリエーションを実現した。 「新しいことにチャレンジしようとした時に、既存の取引先にそれを実現してくれる工場がないと他に手段が見つからないことを課題に感じていました。パターンから素材選び、縫製まですべて一貫してお任せしたことで、実現したいアイデアがスムーズに形になり、ITプラットフォーム取り組みのメリットや面白みを強く実感できました。」(橋本氏) Amazon Fashion Week TOKYO 2017では、コレクション制作の工程を伝えるインスタレーション、服づくり4.0をテーマとしてトークセッション、コレクションをその場でオーダーできる「See now, Buy now」の実験の場となる展示会を行った。バイヤーに限らず、デザイナーやメディアにも今回の取り組みは大きく注目されることとなった。
デザイナーと技術の未知なる出会いでファッションはもっと面白くなる
これまでデザイナーと優れたものづくりの現場が結びつく機会は、基本的に人づてであり、限りなくアナログの世界だった。プラットフォームによって、新たな出会いが生まれ新しいクリエーションが形になる。 「新しいアイデアに対して、付き合い先の工場やOEM会社に”それはできません”と言われてしまうと、通常だとそこから先は進めません。sitateruがネットワークしている先の工場は数が格段に違うため、相応しい工場を見つけられます」(橋本氏)。 今後、実績が増えてデータが蓄積されていけばマッチング精度があがり、デザイナーが本当に求めている技術・今まで知らなかった技術に出会える可能性が増える。デザイナーやブランドとしての可能性を広げていくことで、ファッションシーンにもっと新鮮なクリエイティブが増え、業界全体が活性化していくことに繋がる。ファッションはもっと面白くなるし、未知の可能性にあふれている。 服づくり4.0 プロジェクトレポートはこちら