JAXAの研究開発プログラムのひとつである宇宙イノベーションパートナーシップ「J-SPARC」は、JAXAが持つ宇宙の知見やノウハウを活かし、幅広い分野の大手メーカーやベンチャー企業などと共に、新しいビジネスを生み出している。

THINK SPACE LIFE」プラットフォームは、この「J-SPARC」の中で、暮らし・ヘルスケア分野のプロジェクトとしてスタートした。

J-SPARCユニフォーム

「どういった共創活動を始めるのかをパートナーの民間企業様と組み立て、推進していくのがJ-SPARCプロデューサーの仕事です。」

プロジェクトのはじまりと未来について、JAXA J-SPARCプロデューサーの一人で、THINK SPACE LIFEを担当する中島由美氏にお話を伺った。

「THINK SPACE LIFEプラットフォームは未だ顕在化していないマーケットを、パートナーとこれから一緒に作っていこう、という所からスタートしました。宇宙と地上双方の暮らしをより快適にするプロダクトを生むことだけが目的というわけではなく、そのようなプロダクト開発・社会実装を通じて、宇宙×暮らし・ヘルスケアのマーケットを創出し、日本がそのマーケットでリードしている状態をつくることが、大きな狙いです。」(中島氏)

JAXA中島氏2

THINK SPACE LIFEプラットフォームでの共創活動は、宇宙生活の課題・ニーズと、宇宙と地上のライフスタイルの違いや共通点を考えることから始まる。

「宇宙と地上で大きく異なるのは、やはり微小重力という点です。ほかにも違いはいろいろあるものの日常生活の観点での課題やニーズという意味では、共通点が多いことが分かりました。」(中島氏)

これは目から鱗だ。
宇宙では体も物もフワフワ浮いてしまうため、物をなくしやすく、筋力が大きく落ちてしまうことは想像できる。しかし同時に、私たち地上人は、これらを宇宙特有の事象だと錯覚してしまう。
言われてみれば、地上の重力下でもボーっとしていれば物はなくなるし、運動を少し怠れば筋肉は落ちる。

「宇宙飛行士へのヒアリングなどを複数回重ねることで、このような本質的な気づきに至りました。」(中島氏)

日本人宇宙飛行士へのヒアリングをもとにまとめられた宇宙生活の課題・ニーズは、Space Life Story Bookとして公開されている。これを起点にTHINK SPACE LIFEプラットフォームはアイデア創出支援、企業等の宇宙分野への参画促進、事業促進等を行っている。その一つの取組みとして、JAXAは国際宇宙ステーション(ISS)で使用する新たな生活用品のアイデアを一般公募し、9件のアイデアが選定された。その中で、製品化に至った事例を3つ紹介する。

宇宙船内服
(WHOLEGARMENT®

宇宙船内服

シタテル×スノーピーク社との共同開発によって誕生した宇宙船内服は、高いデザイン性を保ちながらも、無縫製技術を採用することによる快適な着心地がポイントのプロダクトだ。
無重力・微小重力環境の宇宙でも、地上でも、ファッショナブルな『究極のノンストレス・ウェア』として機能する。

また消臭・抗菌機能がある素材を採用しているため、洗濯ができない宇宙空間でも、忙しくて洗濯するのを忘れてしまう地上でも、ストレスフリーなライフスタイルを実現することができるだろう。

mouthpace (マウスペース)

mouthpace

TSUYOMI社が開発したタブレット歯磨き ”mouthpace” は、噛むだけで泡立つため、貴重な水資源を節約しながらオーラルケアができるプロダクトだ。

加えて、日本の春夏秋冬を想起させるフレーバーが用意されているため、宇宙からも、私たちの部屋の中からも、四季の移ろいを感じることができる。精神の安定にも、とても良さそうだ。

3D Space Shampoo Sheet

3D shampoo sheet

花王社が開発した3D Space Shampoo Sheetは、洗髪用の洗浄液を含んだ凹凸形状のシートで、汗拭きシートのヘア・頭皮バージョンと言っていいだろう。

こちらも貴重な水資源を使用することなく、洗髪のリフレッシュ感を体験することができる。
宇宙での運動後、夏の暑い日の出勤後といった、シャワーが使えない場所で大いに活躍しそうなプロダクトだ。

JAXA中島氏3

「THINK SPACE LIFEプラットフォームは、インキュベーションパートナー6社と共催してアクセラレータプログラムも行っています。」

「各パートナー企業の事業領域と、宇宙生活の課題・ニーズの知見をかけ合わせて、宇宙と地上双方の暮らしをより良くするプロダクトやサービスの創出することで、地上での新しいビジネス創出と、将来は宇宙での実装を目指しています。ISSで使用する生活用品アイデア公募に含まれないカテゴリや、長い開発期間を要する挑戦的なプロダクト・サービス創出も視野に入れたプログラムとなっています。」(中島氏)

宇宙のライフスタイルと地上のライフスタイルが影響を与えあう。一見大きく違うと思っていたものが、実は同じだったりする。

宇宙と地球がつながっていることを私たちに思い出させ、胸が躍るプロジェクトではないだろうか?

プロフィール

JAXA 新事業促進部 J-SPARC*プロデューサー
中島由美 氏

*民間事業者とJAXAの間でパートナーシップを結び、新たな宇宙関連ビジネスの創発を目指す研究開発プログラム。
https://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/j-sparc/