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斜陽産業とも揶揄される衣服の縫製業に敢えて飛び込み、クリーンな経営で利益を出し続けている縫製工場がある。株式会社etfaire(エトフェール)だ。

創業は2017年と歴史は浅いが、「MADE IN JAPAN」の高い品質にこだわったものづくりによって、コレクションに出展するブランドや海外からの依頼も受けるほどの実力をもつ縫製工場である。
また、品質の担保は当然のこと、労働環境の向上にも重きを置いている。
我々は代表の内ヶ島さんに話を聞きに、繊維の街・岐阜の地に足を踏み入れた。

 

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日本有数のアパレル街と呼ばれる岐阜。
そのルーツは戦後のハルピン街にあると言われている。
旧満洲国ハルピン市から岐阜に引き揚げてきた者たちは、焼け野原となったこの地で自力で生活再建を果たそうと、岐阜駅前広場に複数のバラックを建て、飲食店や古着屋などを開いて生活し始めた。近隣には毛織物の産地・尾州、綿織物の産地・三河があったこともあり、生地の仕入れには困らなかったこの地にはやがて繊維問屋が栄え、ハルピン街と呼ばれるようになる。

 

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かつてハルピン街と呼ばれた岐阜駅前の中問屋町商店街。ピーク時には1,600超の衣類の製造卸業者が軒を連ねたと言われているが、現在は「シャッター街」となっている。(写真提供 : 天空のジュピター / PIXTA)

 

 

 

岐阜に
縫製工場を作った理由

 

 

 

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株式会社etfaire代表の内ヶ島 圭祐さん。高校卒業後、名古屋にあるファッション専門学校に通ったが3ヶ月程で辞める。成績はよかったが、早く社会に出て、仕事をしながら学びたいという想いが強かったとのこと。

 

繊維の街・岐阜の縫製工場で衣服生産の実務を学び、30歳代半ばで独立したetfaire代表の内ヶ島さんは、「振り屋」と呼ばれるブランドと縫製工場を繋ぐ仕事を行うようになるが、そこで大きな壁にあたる。

ブランド側がこれ以上は出せないというぎりぎりの水準まで工賃を出しても、工場にとっては赤字の仕事が増えていくようになり、そして、その赤字を解消するために無理な仕事を引き受けるという悪循環が発生。その結果、納期遅れや品質の不安定さなどが顕著に出てきたのである。

このままでは日本の縫製工場が無くなってしまう—。

そんな問題にぶち当たったがしかし、内ヶ島さんにはやるべきことがわかっていた。

「ものづくりの日本の縫製工場がこのままでいいわけがないと思った。工場はもちろん、業界全体の環境を改善するためには自分でやればいい。そう思い、自社工場を稼働したんです」

それが、内ヶ島さんが岐阜に、自身の縫製工場を立ちあげた理由だった。

 

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社名であるetfaireの「faire」にはフランス語で「〜をする、〜を作る」という意味がある。正しい事をする、綺麗な製品を作るという想いを社名に込めているという。

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Mission and purpose

内ヶ島さんが考えるetfaireにできること。
それは、日本製のブランドイメージを向上させること。
そして、品質だけでなく、品質以外の価値も高めることである。

生産工程のなかでは検品作業を特に重視しており、細心の注意を払っているという。

 

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「僕たちがつくるものは100%不良品だと思っている。だからこそ徹底的に検品して不良を見つけ出し、それを直しては再度検品することを繰り返しています」

検品を繰り返せば確かに不良率は下がるだろうが、一方で効率は下がってしまう。衣服生産は今でもほぼ全ての工程を手作業で行っているため、スタッフの修理、検品に割く時間が増えてしまう。しかし、内ヶ島さんは意にも介さない。

 

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「スピード重視でやっても直しが増えるだけ。僕たちの生産スピードは遅いと思う。でも価値あるものをつくらないと生き残れない。僕たちの仕事は、1着1着を長く着られるように丁寧につくること」

この一歩一歩の積み重ねで、「正しい事をする。綺麗な製品を作る」という社名に込めた想いを実現させている。

 

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内ヶ島さんが考える
etfaireのもうひとつの使命

 

etfaireの使命・存在意義としてもうひとつ。
それは縫製工場の地位向上と同時に、地域社会へ貢献をしていくことだ。

その象徴的な取り組みが、働く環境の整備。
たとえばetfaireでは、他県で実習困難者となった技能実習生を受け入れ、日本での実習を無事に終えて笑顔で帰国できるよう、賃金や住居も含めた働く環境の整備に尽力している。

 

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繊維工業の事業所数は2005年から2019年にかけて半分以下にまで減り、コロナ禍はこの状況にさらに追い打ちをかけた。

 

従業員に正当な賃金を支払い、働く環境を整備することには当然コストが伴う。
しかしetfaireは、クリーンな経営をしながらも、ずっと黒字経営を続けているのだ。

「あたりまえのことを、あたりまえにやっているだけです。真面目にやっている結果が黒字なんだと思います。それに仕事は人生の一部でしかない。一度きりの人生を大切にしてほしい。それは従業員も経営者も同じこと」

 

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労働環境を整備・向上させながら、企業としても利益を出し続ける。
そして、利益を従業員へも還元し、地域の雇用を創出できる企業となり、地域社会へ貢献していく。
これがetfaireの使命なのである。

Japan’s clothing industry

我々は内ヶ島さんに日本の衣服産業の現状についても話を伺った。

「最近、『高見えコーデ』という言葉が流行っていると思います。安い服を高く見せるコーディネート。僕はあの言葉にものすごく違和感を感じています。高く見せたいのなら、高い服を買いなさい、と」

そう語る内ヶ島さんの言葉には、ものづくりに対する哲学と、社会の公器たる企業の経営者としての哲学が込められていた。

「努力してつくったものを安く売ろうとしてはいけないと思います。価値あるものは、価格も高いんです。僕たちは価値あるものをつくり、その価値を理解してもらって、手に取ってもらいたい」

 

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「僕たちの工賃は比較的高いと思います。でも、それでいいんです。僕たちが工賃を上げることで、他の縫製工場さんも工賃を上げやすくなる。まずは自分たちが先陣を切るんです」

自分たちだけが儲かるのではなく、みんなが儲かるようにしたいという内ヶ島さんの願いを強く感じた一言だった。

 

愚直に、正義を貫く
内ヶ島さんが描くゴールとは?

 

創業時の思いを実現させ、クリーンな経営で利益を出し続けるetfaire。
我々は内ヶ島さんが思い描くゴールについて尋ねた。

「僕は日本の縫製業を後世に残したい。だから、正直に誠実なものづくりをしていきたい。誰かが犠牲になるのではなく、関わる人みんなが幸せになるということが本当の仕事だと思っています」

「そして、それらをやることで縫製業の価値、地位向上を推進していき、これから働こうとする人の職の選択肢として縫製業が入るようにしていきたい。年々目標が増えています。どれも終着点のない目標だと思っているので、ひたすらに日々の積み上げです」

愚直に、正義感をもって使命を果たそうとする内ヶ島さんの強い意思表明だ。

 

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etfaire創業時から変わらない内ヶ島さんの信念。
我々は、この信念の原点には何かがあるのではないかと感じ、次の質問を投げかけてみた。

内ヶ島さんに影響を与えている、尊敬する人物はだれかと。

 

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「尊敬している人は父親です。僕の父は警察官だったんです。正義の人だった。毎日愚直に正義を貫く父の後ろ姿を幼い頃からずっと見ていた」
と、最後に語る内ヶ島さん。

その言葉には、父を想い、岐阜の地から縫製業界を変革していきたいという強い意志と希望があふれ、内ヶ島さんには自然と笑顔があらわれた瞬間だった。

 


 

19世紀フランス思想家のトクヴィルは当時のアメリカ合衆国を訪問し、地域の住民が自力で諸問題を解決しようとする、その強い自治の精神に感銘を受け、そこに民主主義の可能性を見出した。

今回、我々が出会った内ヶ島さんにも、縫製業界の諸問題を自分たちで解決しようとする強い自治の精神が感じられた。
もしかするとその精神は、戦後に自力でハルピン街をつくった岐阜の地に宿る魂であり、日本の縫製業界を変革する可能性なのかもしれない。