ーー尾原さんが話された“個の時代”に、ブランドはどうあるべきなんでしょうか。 尾原:ブランドについては3点申し上げたいのですが、1つは名前をつけるだけでブランドになるというのは大間違いだということ。ブランドは人の心の中にサービスがしっかりはまっている状況を作ることが重要で、空っぽのツボに満足したお客さんが水を貯めていって、満杯になった時に初めてブランドが確立されるようなイメージです。 2つ目は、時代とともにブランドの意味合いが変わってきているというお話です。マズローの欲求説で言う第3段階の”社会的欲求”において、人々にブランドが受け入れられるためには圧倒的に知名度が重要になります。その次にある「人とは違う自分を見せたい」という”承認欲求”に対してはラグジュアリーブランドのような“優越のブランド”が強みになります。今の日本は最後の”自己実現欲求”のフェーズに入っていて、自分にとって意味がある、納得できるブランドのファンになるということです。そういうブランドが求められているんですね。 最後に、矢と的の順番が逆になっているという話。これまでのブランドの作り方は顧客をセグメントして、そのど真ん中に矢を放つような仕組みでした。でも、今やそれがすごく難しくなってしまった。だから、まず矢だけを先に放つんです。足りないと思う生活者ニーズを見つけて、そこに矢を立てて、それから的が広がっていく。的はSNSだったり、ネットだったりでお客さんが作っていくもので、これこそが今の時代のマーケティングだと思います。 ーーブランディングで大事なことはなんでしょうか。 柿沼:私のブランドだと、基本的にサニタリーアイテムってSNSにあげるようなものではないし、薬局では買うと紙袋に包まれますよね。でも私は紙袋に包まれるようなアイテムは作りたくなくて。堂々と持ち歩けるし、見た瞬間に可愛いと思えるファッション感があるものがいいなと思っていたんです。生理用品市場にはファンシーで可愛らしいものがたくさんあるんですが、私としても違和感があって。だから、何かに偏らずに中立であるというか、市場に溢れているものと差別化できる世界観は意識しています。 PRという観点では、思想的な部分をポジティブに広げたいと思っていて。だから、同じような思想に取り組んでいるメディアと組んで読者の方に共感していただくといったことは意識して進めた部分でもあります。特にツイッターをよく見るんですが、これまで「生理がつらい」という話はよく拡散されていて、みんなが悩んでいるということはわかっていたんですが、寄り添う手段が何もなかったんです。だから、ブランドに共感していただける方は多いはずだと思っていました。 ーー最後に「ファッションの未来を創造する」というテーマで話を聞きたいのですが、ファッションの未来を作っていく中で壁を感じて、それを乗り越えたいというときにはどうすべきなんでしょうか。 濱中:私は企業のようなバッカーがいる場合とそうでない場合両方のブランドの立ち上げをしていて、今のブランドでもバッカーがつくかどうか、当時議論になりました。でも、やっぱり自分たちだけでやろうと思ったのは、バッカーがつくことでやれることが制限されることと、今度こそ自分が本当に自信を持って作りたいものをスモールスタートしたいという思いもあったからです。売れるものを作るのなら前職でもできることだし、せっかく独立するならリスクを持ってでもやるべきだと。 でも、すごくいい素材ということには実はこだわっていなくて。「手に入る憧れ」と言っているんですが、洋服は日常のものなので手に入る中で憧れがあるものを作らなければいけないと思っています。 柿沼:ウェブの業界では同い年くらいの子が多くて、教え合う環境や意見を言い合うフラットな環境がありましたが、アパレルは意外に上下関係があって、大手企業だとなかなか若い人の意見を吸い上げることって難しいと思うんです。でも、これこそ業界が発展していくためにすごく必要なことで、意識的に取り組んでいくことは業界が変わるチャンスなんじゃないかと感じています。 ーー尾原さんの考えを全て理解するためには、本をぜひ読んでいただきたいのですが(笑)、最後に「ファッションの未来」という視点で何かご意見をいただければと思います。 尾原:ご紹介ありがとうございます(笑)。こんな変化の時代に、ファッション業界は何十年も前の仕組みを持っていて、しかも成功体験のある人が上にいたりするので、私はこの仕組みを破壊しなければいけない、ということを書いたのですが、例えば本でもあげているような「レント・ザ・ランウェイ」みたいな新しい仕組みはすでに浸透し始めているわけです。 私はファッション業界の理想の未来は、人が人間らしく生きることだと思っています。それから、仕事をすることと暮らしが一体化していることが大切で、自然と共生して暮らすと言いますか、世界的に見ても日本が昔から持っている概念なわけで、そんな日本的な思想がモノづくりと個人単位でつながることがいい未来なんだと思っています。 ーー壁を超えてきたお三方から、様々なエッセンスと勇気をいただき、これからのキャリアやブランドについて考えさせられる時間でした。ありがとうございました。