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福井には織物や染色に必要な良質な水資源が豊富にある

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株式会社SHINDO本社受付

繊維の産地、福井から世界へ。SHINDO成長の軌跡

福井は工芸品だけでなく、伝統的な絹織物である羽二重生地にはじまり、ナイロンやポリエステルといった合繊繊維などの産地でもある。繊維産業の一大産地であり、織物や編み物の工場が数多く存在していた福井で、創業者の新道忠志氏は細幅の織物に特化した事業を起こした。

当時はまだ日本市場に浸透していなかった細幅の服飾副資材という領域に挑戦しようと考えたきっかけは、ヨーロッパ視察の際に、店頭で見たきらびやかな衣服たちだったという。中でも彼は、当時の日本ではなかなか見られない、装飾性の高いリボンやテープといった細幅のアイテムが衣服の価値を向上させていると考えたようだ。

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創業者・新道忠志氏がヨーロッパ視察で収集したリボンのサンプル

そうして立ち上がった服飾副資材の事業として最初に手がけたのは、国内スポーツブランドのジャージなどに付属するテープの受注生産だ。ブランドと一緒に企画から考え、形にしていった。以降、数々の大手スポーツブランドとの取り組みを拡大していく。

uniform_1uniform_2しかし、当時のスポーツブランドはシーズンごとにアイテムを出すことが多かったため、発注が特定の時期に集中し、繁忙期と閑散期が極端に発生していた。そうした状況下で、閑散期を埋めていくためにオリジナルの商品を作って在庫を用意するという発想に至り、生まれたのがオリジナルブランドの「S.I.C.(SHINDO ITEM CATALOG)」だ。

短納期、小ロットの素材発注をしたいというニーズがあったアパレル業界に対して、好きな時に好きな細幅のアイテムを少量から発注できる体制を構築し、国内企業との取引を着実に増やしていく。

 

shindo_s.i.c.shindo_ribbon国内で実績を積んでいった「S.I.C.」は、海外にも目を向けていく。

2000年のブランド設立以前から既に中国などに事業所や工場を設立していたが、2002年にニューヨークにショールームをオープン。2005年にはパリで行われる国際的なテキスタイル見本市であるプルミエール・ビジョンへの出展を開始し、2007年には有力メゾンのアトリエが集積するパリの一等地にショールームを構え、ラグジュアリーブランドをはじめとする様々な有力ブランドの間で認知を広げて行った。

今では世界17箇所に拠点を構え、国内外のスポーツ・アパレルブランドにリボンやテープを供給している。


shindo_map他社にはない強みをもとに、常に新しいものを提案し続ける

SHINDOが各国のブランドから選ばれ続けている理由は、ビジネスモデルやグローバル展開だけではないようだ。
繊維事業営業部門広報部主事の井上修さんは「商品提案力も強みの1つです」と語る。

「当社は現在、国内外で年間16ほどの展示会に出展していますが、それぞれの展示会で常に新しい素材を紹介しています。お客様を飽きさせないことが大切です」

国内外のスタッフから得た市場動向に関する情報や、長年のモノづくりの知見をもとに、日々新たな商品を探索・開発することで、豊富な製品ラインナップを実現している。


exhibition_room多種多様な製品の製造プロセスや品質管理もSHINDOの特徴だ。

「通常は生地を作る会社や加工する会社、染める会社など、工程が会社単位で分かれていることが多いのですが、当社では全ての工程を一気通貫して製造し、出荷していることに加え、効率的な人材配置なども行い、製造プロセスの効率化を図っています」

繊維事業の生産と管理を統括する隠居孝伊智さんはそう説明する。

 

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福井の温暖で多湿な気候では糸の絡まりを引き起こす静電気が発生しにくく、これが古くから紡績産業の発展を支えてきた

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製造の要となる生産設備は既存設備を独自に改良。設備メンテナンスも内製化することで高い品質を担保している

「当社は細幅のメーカーとしては珍しいISO認証(国際標準化機構が定めた品質基準を満たしていることの証明)を取得し、各工程で基準をクリアできているかも厳重にチェックしています」(隠居さん)

いかにタイムリーにトレンドのアイテムを提供できるかが重要となる細幅の服飾副資材業界において、SHINDOはより高品質な製品を提供する体制を整えているのだ。


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“ダメ元の挑戦”から生まれたサステナブル素材

確固たる製造プロセスと高い品質を確立しているSHINDOだが、新しい技術への挑戦も忘れていない。

2023年8月には「S.I.C.」の製品ラインナップを刷新。約8年ぶりとなるこのリニューアルでは、”サステナブル”をテーマに、リサイクルポリエステルやオーガニックコットンといった環境配慮素材を使ったアイテムを発表した。中でも代表的なのがゴムのように伸び縮みする「メカニカルストレッチテープ」だ。

「開発に1年ほどかかったのですが、企画がスタートした段階では、作れるはずがない・作れても程度がしれているといった偏見がありました。しかし、生産性などは一度度外視し、ダメ元であらゆる手法を試した結果、編みの設計と熱処理の手法の工夫で生産できました。技術者としても一つの成功体験になったと思います」(隠居さん)

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メカニカルストレッチテープはリサイクルが難しいとされるポリウレタンをつかわず、同等の機能を有している点が特徴

時代と共に進化し続ける。SHINDOが見据える未来とは

世の中の動向も見据えながら技術革新を続けているSHINDOは、リボンやテープなどの細幅の素材に、今後は何が求められると考えているのだろうか。

「従来通りのファッション性に加え、薄さと軽さの両立や接触冷感、紫外線対策といった機能性も必要とされていると感じています。また、サステナビリティやエコフレンドリーといった言葉は引き続きキーワードになるでしょう」(井上さん)

背景にあるのは、消費者の意識の変化だという。

「オシャレな服を買いたい、という根底の意識はありつつも、環境に配慮されている素材が使われているかや、服に関わっている会社がどのように社会へ貢献しているかといった点に消費者の意識がより向かっているな、と感じています」(井上さん)

同社は現在、「S.I.C.」の刷新といった製品面だけでなく、太陽光発電への注力や排水のリサイクルなど、環境負荷を減らすための設備投資も行っている。

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染色工程では排水の熱を利用して染色用の常温水を温めるなど熱効率の向上もはかる

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また、デジタルファッションの領域におけるリボンにもニーズがあるようだ。
メタバースをはじめとするデジタル空間でも使用できることを前提とした、立体的かつ構造的に見えるリボンが求められており、SHINDOでも既に実験を始めているという。

時代の変化に合わせ、進化を続けるSHINDOは今後、どうなっていくつもりなのか。井上さんと隠居さんに尋ねてみた。

「リボン・テープといえばSHINDO、そして『S.I.C.』と認識されるような存在になっていきたいですね。製品を世に出していく際に、お客さん一人一人のニーズに応えていけるような企業であり、スタッフでありたいなと思っています」(井上さん)

「例えばサステナブル文脈においては、海外を中心に環境配慮への意識が非常に進んでおり、素材だけでは目を引けないような時代になっていくと思っています。そのため、次の一手は国内外のスタッフと話しながら考えている最中です。見た人がおっと思えるような製品を出していきたいですね」(隠居さん) 

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製造プロセスについて語る隠居さんと広報の渡邉さん

 



世界的なファッションブランドを顧客に持つSHINDO。
福井に数多く存在するリボンメーカーの中でも、きらびやかな企業を想像していたが、実際に訪れて感じたのは「誠実さ」という言葉がぴったりと重なる企業だった。

顧客を飽きさせない継続的な商品提案。ダメ元でも挑戦し続ける粘り強い商品開発。太陽光発電や排水処理の工夫による環境配慮。そして、誰に対しても笑顔と挨拶を欠かさない社員たちの姿。
一本のリボンから始まったSHINDOは、誠実に、ひたむきに、自分たちにできることを重ねていくことで、顧客からの厚い信頼を紡いできたように思える。

SHINDOという企業は、まるで顧客からの信頼という贈り物を包み込む、繊細で美しいリボンそのものだと感じられた。

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