イトマチホテルゼロ_外観

愛媛県・西条市に誕生した新しい都市「いとまち」

愛媛県西条市。ここは西日本最高峰の石鎚山の恩恵を受け、鉄管を地盤に打ち抜けば水が出るということから名づけられた「うちぬき」という、豊富な地下水に恵まれた場所だ。古来より人の営みがある西条には、多数のだんじりやみこしが奉納される「西条祭り」が江戸時代から続くなど、文化的な側面もある。

そんな西条市だが、ここ数年は「人がいない」「活気がない」という課題に直面していた。

株式会社アドバンテックは愛媛県西条市で創業し、現在は半導体製造関連事業を中心に国内外で事業を展開するという会社だ。代表の山名氏は、西条市が置かれている状況を知り、もともと事業的な側面から模索していた「脱炭素社会の実現」と「地方の活性化」の両方につながる場として、「いとまち」を西条市に作る構想「糸プロジェクト」を立ち上げた。

西条市の良さを”よそ者”が再編集 ―「ITOMACHI HOTEL 0」

イトマチホテルゼロ_看板

「まず私たちは愛媛県内、そして何より西条市の方々に支持されるホテルになりたいと思っています。」

そう語るのは、「ITOMACHI HOTEL 0」の企画・運営を行う株式会社GOODTIME代表の明山淳也氏だ。地元の人々から支持してもらうために、東京で流行っているものを持ってくることも考えられるが、その選択肢はとらなかったという。

「西条の良さを、”よそ者”である私たちが発信することで、地元に対する誇りを持ってもらいたいと思っています。西条には『うちぬき』がありますので、ホテルの滞在ではやはり、水からつながる体験を大切にしています。調度品やアメニティも西条や愛媛のものを中心に構成しているのですが、地元のお客様から『ここ、西条じゃないみたい』という新たな価値に気づく感想をいただけると、とても嬉しいですね。」(明山氏)

イトマチホテルゼロ_水場

ホテル中庭にある「うちぬき」の水場。一体化されたベンチに腰かけ、自然を感じながら仲間と語らうことができる。

イトマチホテルゼロ_水

「うちぬき」水場の水面。地元の豊富な水を感じることができる。

イトマチホテルゼロ_蛇口

ホテル客室内にある洗面台の蛇口は、沸き上がる地下水が想起されるデザインとなっている。

“よそ者”だからこその新鮮な角度から西条を知ることで、地元の人々が気づいていなかった、あるいは、忘れかけていた良さが見つかるのかもしれない。「ITOMACHI HOTEL 0」は、それらの良さを再編集し、世界的建築家である隈研吾氏による建築やゼロ・エネルギーという新しい価値とともに、発信している。

イトマチホテルゼロ_調度品

ホテルが用意している調度品やアメニティの一部。ホテルのウェブサイトも参照し、数々のこだわりを感じてもらいたい。

まちとホテルの世界観を伝えるオリジナルユニフォーム

イトマチホテルゼロ_ユニフォーム1

「ITOMACHI HOTEL 0」のスタッフは、シタテルのサービスで作成した、オリジナルのユニフォームを着用して業務にあたっている。

フロントとカフェのサービスなど、様々な業務をマルチタスクでこなせる機能性を担保するのはもちろんのこと、色合いや生地の質感でホテルの世界観を表現している。

イトマチホテルゼロ_ユニフォーム2

少し青みがかったアースカラーの生地や袖口の青いボタンは、石鎚山で採集される「伊予青石」からインスピレーションを受けたホテルの装丁と連動。また、環境に配慮したまちづくりのコンセプトも踏まえ、生地には再生ポリエステルを使用している。 

イトマチホテルゼロ_ユニフォーム3

ゆったりとしたサイズ感を採用することで、スタッフが様々な業務をする上で支障がない動きやすさも実現している。

ローカルスタイルホテル「ITOMACHI HOTEL 0」のチャレンジ

「ITOMACHI HOTEL 0」は2023年5月にオープンして、迎えた最初の夏休みでは帰省などのタイミングでご家族で足を運ぶ愛媛出身のお客様が多くいるという。

「まずは地元の支持を得たい」と語った明山氏だが、今後もより多くの人に訪れてもらうための展望はどう考えているのだろうか。

「ホテルに泊まるだけではなく、まち全体で色々な体験をしていただきたいと思っています。例えば、会社のメンバーで来ていただいて、昼は広場や館内など思い思いの場所で仕事、夜は集まってバーベキューするとか。他には、ファミリーで泊まっていただいて、石鎚山でのアクティビティに子供が参加したり、みんなで農家に収穫体験に行ったりとか。そんな風に、滞在中に地域の良さを知っていただくことで、西条市に興味を持つ人の数を増やしていきたい。」

イトマチホテルゼロ_客室

まち全体を体験する提案を通じて、一般的に言われる「ライフスタイルホテル」の枠を飛び出し、「ローカルスタイルホテル」の側面を強調したいと明山氏は語る。

「地域の生活、『ローカルスタイル』を楽しめるホテルにしたいと思っています。例えばニューヨークに行ったら、ベーグルを買って通りを歩いてニューヨーカー気分、とかちょっとやってみたくなるじゃないですか。それはニューヨークだけが、そうしたくなるということじゃないと僕は思っています。各地域に誇れるものがあって、今の時代ではその価値を見付けてもらいやすくなっていると思います。西条で暮らす良さを感じられるようなコンテンツを『ITOMACHI HOTEL 0』にはご用意しているので、滞在後に『西条で暮らしてみてもいいよね』とか、『年に1回はここで過ごしたいよね』とか、そう言ってもらえるように、外に向けて発信していきたいと思っています。」

イトマチホテルゼロ_庭園