異国の地でブランドの思想や価値観を示す
軽井沢を本拠地として、全国に飲食店を展開する株式会社フォンス。蕎麦「川上庵」、ベーカリー「沢村」、日本食「酢重」など、ハイエンドながら客層の広い人気ブランドを生み出してきた。
実は、約10年前からシンガポールのマンダリンギャラリーに「酢重」を展開している。現地でもファンが根付いてきたこともあり、今回シンガポールチャンギ空港にできた大型施設「JEWEL(ジュエル)」内の、「JW360°」という複合型店舗に「レストラン酢重正之」と、和の素材を生かしたスイーツなどを提供する「JW360°カフェ」をオープンした。
「私たちはいつも、日本の伝統的なものに敬意を払いながら、それらを今の時代に合った打ち出し方で創作して提供いきたいと考えています。日本食のお店でも、モダンな空間で、ジャズが流れている、といったようなお店づくりをしています。シンガポールでも、固定概念的な日本らしさに媚びることなく、今現在の日本を表現したいと考えました」(株式会社フォンス広報担当者)
シンガポールを中心として東南アジアでは、いま日本ブームの波が来ている。和食レストランが増える中で、他とは違うブランドの思想や価値を、お客さんにも働くスタッフにも体感してもらいたい、そんな思いがあった。
個性を活かしながら統一感を持たせる装いを
そんなお店づくりの課題の一つが、スタッフユニフォームだった。フォンスでは、エプロンなどは貸与しながらも、シャツやパンツなどは色指定のみで私服だった。しかし、今回の店舗では、中国系、マレーシア系、ベトナム系など多様な人種のスタッフが働くことになる。
「外見も言葉も多種多様な方々が一緒に働く中で、どのようにブランドとして統一感を持たせるか、ということが課題でした。一方で、会社の価値観としては個性を尊重していきたいという思いもある。ユニフォームを作って服装を決めつけてしまうと、一気にチェーン店っぽさが出てしまわないか、など懸念をしていました」(フォンス広報担当者)
個性を活かしながらも、誰もがすっきりした着こなしができ、機能的で長く使える仕立ての良い服を作ることはできないか。そう考えていたときに出会ったのがsitateruだった。
個性と統一性、デザイン性と機能性、質とコスト、様々なバランスを考えながら、はじめてのユニフォームづくりチャレンジした。髪色やピアスなどは厳しくせず、着こなしや個人のおしゃれを楽しむ幅も持たせ、個性も尊重した。
個の時代に、ブランドに所属する誇りを持つために
「結果的に、ユニフォームを作ったのは本当に良かったです。多国籍のスタッフがいる中で、社内でも一体感が出ました。ユニフォームがあると、言葉では細かく伝えられなくても、ひとりひとりにブランドの代表として立ち振る舞うという、意識と誇りを持ってもらえます。着た瞬間、スタッフの身が引き締まった印象がありました。社員が名刺をもらったときに嬉しくなる気持ちと同じですよね」(フォンス広報担当者)
フォンスでは、「お店はオープンしてからが勝負」という共有概念がある。お店づくりは、お客さんの反応を見ながら、現場で働くスタッフが作り上げていくものだという考え方だ。だからこそ、インナーブランディングはとても大事に考えている。
「最終的にお店を作り上げていくのは、スタッフや、提供する料理、サービスです。オープン後、メニューやサービスの仕方などは、すぐに現場で変えますよ。ブランディングコンセプトや空間デザインは軸となりながらも、働くスタッフこそがお店の雰囲気をつくる要素。今後も、いかに個を活かしながら統一感も出していくか、という大きな命題にチャレンジしていきます」(フォンス広報担当者)
働き方も変わり、個が尊重される多様性の時代に、それでもブランドへの所属意識や統一感は必要になる。これから、すべての企業やブランドが直面する課題かもしれない。どちらが正しいか、なんていう答えはない。まずは、このバランスに向き合う真摯な姿勢や、働く人に対する敬意、社員と共にルールやデザインを考えることが、大事になりそうだ。