aoiyamada_bento_1お弁当作りも含めて「全てが表現」

ーダンスに魅力を感じた理由を教えてください。

アオイ:幼少期に近所のお姉さんがダンスをしているのを見て、自分もやりたいと思って始めたのがそもそもの始まりでした。そこでいざダンスをしてみると、自分が言いたいことを初めて全部言えた感覚がしたんです。

言いたいこと、と言っても大人になって抱えるようなものではなくて、子供なりのちょっとしたことです。でも、子供の頃は自分が知っている言葉が少ないこともあって、うまく伝えられない歯痒さが溜まっていました。その歯痒さを、踊りで全て放出できた気がしました。赤ちゃんがお腹が空いたけど言葉では言えないから泣く、といった感じに近いのかもしれません。

ーダンサーとして活動を始めた当初と現在で、アオイさんの表現には何か変化があったのでしょうか?

アオイ:活動を始めた16、17歳くらいの頃は、事前に練習していた振り付けしかできなかったのですが、今は着ている服や音楽、環境などから体が素直に付いてきてくれるようになったのかな、と思います。

また、以前よりも周りに委ねようと思うようになった感覚もあります。以前は「周りがどうであろうと、これが自分だ」という思い込みがあり、一生懸命表現しようとしていましたが、徐々に周りの人のことを信じて、一緒にやっていこうという気持ちに変わっていきました。

aoiyamada_egg_2ー変化のきっかけは何かあったのでしょうか?

アオイ:Cinema Staffのpulseという曲のMVに出演したことがきっかけでした。撮影の際に「自由に動いてください」と言われたのですが、何をすれば良いか全然分からなくなってしまって。一方で、一緒に出演していた男の子はダンサーではなく、ただ歩いたり、しゃがんだりといった動きを繰り返しているだけなのにすごく物語を感じました。私がどれだけ一生懸命暴れても伝わらないストーリー性が彼の動きにはあって、ショックを受けたのを覚えています。

そこから、技術とかではない部分を伸ばしたいと思うようになりました。10代の頃は何を着てても、どんな環境でも同じ動きしかできなかったのですが、今では服を着た時に、「こういう服を着ている、ということはこんなところにいるのかな、こんな音楽が流れているのかな」というイメージと動きが生まれてくるようになりました。

ー今ではダンサーだけでなく、俳優業やモデル業といった活動も行っていますが、それぞれの活動において意識する点に違いはあるのでしょうか?

アオイ:私にとっては全てが表現活動なので、大きな違いはないんです。言ってしまえばお弁当を作る時も同じです。

先日、高校生の子たちとワークショップをした際に「表現って何?」と聞かれ、自分の思考の通路のようなもので、全てが表現になると答えたことがあります。製品やサービスにしても、お弁当にしても多くのものに「こういうモノを作りたい」という考えがあるし、その考えの道筋が表現になっていくんだと思っています。

aoiyamada_washi_1モノ単体では分からない。アオイヤマダが魅力を感じる服とは?

ー様々な表現活動を行っているアオイさんにとって、衣服はどのような役割を担っているのでしょうか?

アオイ:普段着る服は”友達”みたいな感覚ですが、ダンスをする時の服は”監督”みたいだなと最近思っています。動きすぎたり、服に合っていない動きをしたりすると良く見えないこともあるけれど、新しい動きができたり、いつもよりも動きが良く見えたりと、新しい気づきを与えてくれることもあります。

例えば、今日の撮影で着ていた紙のドレスは、アーティストの田中秀彦さんが作ってくれたもので、宇陀紙と呼ばれる伝統的な和紙からできているのですが、自分がイメージした体の動きとは違う形になるので、撮影後のビジュアルを見返すと面白くて。紙独特の音もすごく良く、不思議な感覚になります。

aoiyamada_washi_2aoiyamada_washi_3aoiyamada_washi_4aoiyamada_washi_5ー今まで着てきた衣服の中で、印象的だったものがあれば教えてください。
アオイ:普段着ないような衣装はほとんど印象に残るのですが、自分がどうしたら良いのか分からなくなるような服は面白いな、と感じますね。雰囲気が似ている服でも、ちょっとした違いで表現がすぐに降りてくるものと降りてこないものがあります。

特にコスチュームアーティストのひびのこづえさんの服は印象的なものが多いです。中でもアイナ・ジ・エンドさんと一緒に着た繋がった服は、最初はどうしよう?と思ったのですが、こづえさんに「服と対話してください」と一言言われ、2時間くらいアイナさんと一緒に服を見つめ続けました。実際に見えてきたものもあり、学びが多かったなと思っています。

ーオン・オフに限らず、アオイさんが魅力を感じる服はどのような服なのでしょうか?

アオイ:今はデザイナーさんや作り手がどういう人なのかを知ることで、服に引き込まれることが増えてきたように思います。子供の頃は好きな色合いがギュッと詰まっている服を選びがちだったのですが、ファッション関係の仕事をさせていただくうちに、モノだけを見てグッと来ることが少なくなってきました。

実際に洋服が欲しいと思って街に出かけても、どんな服が欲しいのか分からなくなることがあって。そういった背景もあって、自作のお弁当の写真をプリントした服を海外サイトで作って着始めたんです。

ーどのような作り手の方に魅力を感じますか?

アオイ:「ミナ ペルホネン(mina perhonen)」の皆川明さんの考え方はすごく新鮮でしたね。皆川さんの「こういうデザインを作りたい」ではなくて「この工場とならどういうデザインを作れるか」、そして「大量生産を一時的にではなく、どのように一定量をずっと作り続けるか」といった考え方を知って、自分にはなかった視点だなと感じました。

また、「27」というプロジェクトの人たちも面白いです。「人生には27のアイテムさえあれば良い」という考えのもと、27個のアイテムをクラウドファンディングを通じて欲しいと思う人たちのためだけに作っているのですが、素材に使われている水の状態など、私の口では説明できないほど細かいところにまでこだわっています。そうしたこだわりを持っている人たちには惹かれるし、興味が出ます。

 

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自分を信じて踊り続ける。表現者としての挑戦

ー今後、どのようなことに挑戦していきたいですか?

アオイ:いっぱいあるのですが、1つはお弁当の服をいつかブランドにしてみたいです。今は自分が着られれば良い、という感覚なのですが、「欲しい」と言ってくれる人がちょっとずつ増えているので、信頼できる、作るのが楽しいと思ってくれる人たちと一緒に服を作って、自分以外の人たちにも届けてみたいなと思っています。

あとは俳優業ももう少し頑張ってみたいなと思っているのと、声を使うパフォーマンスにも挑戦してみたいです。今までは既存の曲で踊るだけだったのですが、最近は音作りも始めているので、音作りとマイクパフォーマンスと身体表現を組み合わせた表現ができたら良いなと思っています。今話していて、お弁当屋もやってみたいなぁと思い始めました(笑)。

欲張りかもしれないし、色々やって中途半端だぞ、と思われるかもしれないけれど、これが好き!これがやりたい!と思えることをやっていきたいです。

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ー10年後の衣服産業について、アオイさんの思い描く理想の形などはありますか?

アオイ:あまり詳しくはないのですが、服を作る人とデザインをする人、欲しい人の形がバランス良くなると良いのかな、と思っています。

先日、お花をたくさん使う仕事をした際に、大量に撮影で使って、終わったら必要なくなる、ということに対して心が痛くなったんです。でも、フラワーデザイナーの方に話したところ「使う人がいなければどんどん捨てられてしまうから、花を使うことで、作っている人たちが救われる。作る人、売る人、買って使う人も含めたバランスが大事」と言われてすごく納得して。ファッションでも関わる人たち、買う人たちのバランスが大切だなと感じました。

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ー10年後の衣服産業の理想の形に向かって、アオイさんご自身はどのような形で貢献していきたいと思っていますか?

アオイ:私自身は服を作れないし、単に使っているだけで、時々「本当にこれで良いのかな?」と感じることもありました。でも、服を使ってどう表現をするか、どう人生を充実させるのかにしっかり向き合うのが自分の役目でもあるのかなと今では思っています。

また、最近は私のパフォーマンスを見て「涙した」「気持ちが変わった」といった感想をいただくことも増えてきました。私のことを知ってくれて、喜んでくれる人、救われる人がいることを知って、自分の活動が人のためになれるよう、より頑張っていきたいなと思います。

たとえ人のためになれなくても、自分を信じて踊り続けるし、お弁当も作り続けます。いつかは好きなモノをギュッと詰め込んだお弁当箱みたいな空間が作れると良いな、と思っています。

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ー今後も様々なことに挑戦していくと思いますが、未来の自分に向けて何かメッセージはありますか?

アオイ:よくおじいちゃんに言われていたことでもありますが、「周りの人に感謝してください」と言うかもしれません。色々とやろうとすると自分のことでいっぱいいっぱいになってしまうこともあると思いますが、感謝だけは忘れないようにしていきたいです。

 


sitateru eyes / 編集後記

シタテル代表・河野が見たアオイヤマダ

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「Primitive&Elegant」

アオイさんには明確な肩書きはないということですが、インタビューや撮影を共にした時間を振り返ると、やはり『体現者』という一言に尽きると感じました。彼女の中に流れるプリミティブな原動力と子供のような好奇心。同時に生粋のエンターテイナーであり、観る人の体温を高める熱を作品に吹き込むように、人々を魅了し続けています。

その華やかな姿の一方で、様々なジレンマを抱えながらも、表現に対するプロとして自身の可能性を更に引き出そうとする探求心と、表現者として、あらゆるジャンルで「光と影」を能動的に引き出す力を追求し続けている進化欲求を感じました。

過去にロッククライミングをやっていたことがありますが、彼女の表現もまた、瞬時にその空間(状況)と頂上までのルートを直感的に捉えて、時々の難しい条件下においても、緊張感を楽しみながら挑む、アスリートにも通ずるようでした。

おそらく今後も、どんな状況においてもイマジネイターとして、また時代が求める魅力的な「体現者」として、エレガントとプリミティブ、それらが絶妙に交差する瞬間を表現し、楽しみ、観る者を魅了し続けることでしょう。

美意識やテクノロジーにおいても、非言語の表現やノンバーバルなコミュニケーションが求められる中で、次の10年が最も期待できる一人であり、新たな領域を切り開いていくのかとても楽しみです。