植山織物株式会社は、1948年に播州織の布帛製造工場としてスタートした。輸出をメインに規模を拡大させていったが、1985年のプラザ合意以降、内需の拡大に向けて自ら企画・販売する事業形態へと転換を図った。
現在は4つのブランド事業やグローバル展開を筆頭に、その活動は多岐にわたる。ブランド事業における商品ラインナップも、播州織だけでなく今治タオルやウールブランケットを取り扱うなど、幅広いビジネスを展開している。
植山展行氏は、2011年から植山織物株式会社の4代目として代表を務めている。東日本大震災以降、「日本でのモノづくり」に価値を見出し、製品事業に重点をおいて会社を成長させていった。物流システムの構築や業務の効率化などにおけるDX化に前向きに取り組み、更なる飛躍を目指して挑戦し続けている。
植山織物はそのブランド事業に大きな強みを持つ。代表ブランドである”Shuttle notes”は、原料の選定から仕上げまで、全ての工程において徹底的にこだわり抜いたブランドだ。その高いクオリティから、”Shuttle notes”のシャツは世界的に人気を博している。
「海外展開やブランド事業の立ち上げで、コケてしまうこともありました。ただそこで諦めるわけにはいかないので、トライアンドエラーを繰り返して成長しているんです。」と植山氏は語る。
植山織物は臆することなく日々挑戦し続ける。デジタルを活用した業務改善やブランド事業を通じた海外展開など、さまざまな領域でチャレンジを重ねているのだ。
4,000種を超えるテキスタイル在庫
兵庫県多可郡多可町にある植山織物の倉庫に足を運ぶと、膨大な量の生地に圧倒される。そこにストックされている生地在庫は4,000種類を超えているそうだ。ここまで豊富な在庫を有しているメーカーは播州地域でも希少だという。
これは在庫をICタグやQRコードを用いて常にデジタルで管理していることから、成せる業だ。
「こんなに在庫がある織物工場なんてなかなかないですよね。すごい。」(宮浦氏)
「はい。それらを売るための努力として、全ての生地を検索・閲覧できるECサイトも開発中なんです。」(植山氏)
「在庫=リスク」と捉える企業も多い中で、豊富なバリエーションを持った植山織物は価値を発揮する。多くの在庫を持つことで、商品を出荷するまでのリードタイムを短くすることができるのだ。
現状は国内をメインに販売対象としているが、いずれは海外販売も視野に入れている。商品ラインナップを更に増やして、顧客を拡大する予定だ。
海外展開へ向けたDX改革
植山織物は2000年代後半から、より広いマーケット拡大を獲得するために海外展開を始めた。パリの”PREMIERE VISION”といった世界最大のテキスタイル見本市へ出展するなど、グローバル展開に舵を切った。
グローバル展開に伴い、デジタルを活用して生産管理や経理関係の業務効率化を図りDX化を行う必要があった。植山氏は、電子機器の大手メーカーでシステム構築を担当していたという経験を活かし、前のめりの姿勢でDX改革を進めていったという。
「代表に就任した際に、今後数十年の未来を見据え、自社で行う事業を取捨選択する形で事業をコンパクトにしました。」(植山氏)
当初は縮小部門の従業員から反発の声もあったというが、代表の植山氏自らが新しい事業を率先して形にしていった。現在はECの物流拠点を事務所に設置し、生地の撮影まで行うなど、自社でやりきる姿勢も植山織物の特徴だ。
カラフルな糸で織りなす「播州織」の工場
実際に生地を製造している植山織物の工場を案内してもらった。
まず訪れたのは、「整経」の工程。糸を織機にセットできる状態にするため、均一の張力で必要な長さの経糸を並べていく。
整経を終えた糸はビームと呼ばれる巨大なロール状に巻き上げられていく。先染めを行なって糸が巻かれているため、色とりどりなビームがずらっと並ぶ姿が目に入る。
糸を織る織布工場では、70台以上の織機が稼働している。その種類はエアー織機、シャトル織機、レピア織機など様々で、播州産地でもトップクラスの生産規模を誇る。そのキャパシティを活かし、年間で200万メートルもの生地を製造しているという。
丁寧なモノづくりブランド”Shuttle notes”
植山織物の自社アパレルブランドである”Shuttle notes”では、昔ながらの丁寧なモノづくりにこだわっている。
「シャトル織機の奏でる音」から命名された”Shuttle notes”。
そのシャツは、独特な膨らみがありながら、100回洗ってもヘタらないタフさを持つという。70年以上シャツ生地を手がけてきた植山織物にしか作れない、クラフトマンシップ精神が込められた、特別なプロダクトだ。
シャトル織機はゆっくりと緯糸を走らせ、小気味いい音を奏でながら生地を織っていく。決して生産効率が良いとは言えない方法だが、このような丁寧なモノづくりでしか出せない風合いがある。ゆっくりと時間をかけて織ることで、生地に独特の膨らみが生まれるのだ。
中国の工場で作られた生地と比較すると、外観で大きな違いは判別しにくいものの、触ると確かに分かる。身体に優しく馴染み、包み込んでくれるような風合いだ。
「ゆっくり丁寧にモノづくりをすれば、良いものは出来上がると信じているんです。このブランドが持つアナログの良さを、デジタルの力で伝えていきたいです。」(植山氏)
植山織物は”Shuttle notes”の他にも、『BasShu』、『OUPS』、『fabric – store』といったブランドを展開している。積み上げてきたテキスタイルの知見を活かし、様々なブランドを通じてモノづくりの魅力を発信している。
「想い」を紡いで生活を彩る
「今後、植山織物が目指していくことはなんですか?」(宮浦氏)
「日本で一番彩りの多い会社になりたいんです。地域の特性上シャツが注目されがちですが、それに限らず多岐にわたって面白いものを作っていきたいです。そのためにも、産地内でのコミュニケーションは活発にしていくつもりです。」(植山氏)
「想いを紡ぎ、生活を彩る」—―。これは植山展行氏が先代の想いを継いで、経営理念として掲げた言葉だ。
工場で働く従業員、実際に服を手にとる消費者、携わる全ての人々の想いを紡いでいく植山織物。
そんな植山織物のクラフトマンシップと挑戦は、これからも社会に彩りを与えていく。