Snow Peakが2018年にスタートした「LOCAL WEAR(ローカル ウェア)」という新ライン。プロジェクトごとに一つの地域に特化して、地元の企業とともにワークウェアを作る試みで、第一弾は同社が拠点を置く新潟をピックアップ。佐渡に根付く仕事に注目した衣服を製作した。
今回、第二弾として発表したコラボレーション地域は岩手。100年以上の歴史を持つ老舗染物店「京屋染物店」と協業し、岩手の伝統芸能「鹿踊(ししおどり)」や祭をモチーフにした衣装を仕立てた。
今回は昔ながらの技術でできた生地を用いて伝統的な祭衣装を作った「昔シリーズ」と、あえて和裁(直線裁ち)を洋服に仕立てた「現代シリーズ」の2パターンを用意。京屋染物店は現地でデザインや染め、縫製などを一貫して行う珍しい企業だが、主に和服を専門とする同社ではまかないきれない洋服の縫製などを、sitateruがサポートする形で岩手県内の工場と提携し、製品化した。
「昔シリーズ」にある半纏(はんてん)や法被(はっぴ)はまさに祭を彷彿とさせるアイテムだが、ここでは「裂織(さきおり)」という不要になった布を細かく裂いて織り上げた素材を用いている。図柄はSnow Peakデザイナーの山井梨沙氏曰く「自然への敬意」をテーマにしたもので、バティック柄というインドネシアの伝統を受け継いだ“NIHON Batik”と“山脈”というネーミング。藍色と白色のみを用いて日本の景色・風土を抽象化して表現した。
LOCAL WEARというラインの背景には、「シーズン性・トレンド性のあるファッションとしての洋服」だけではない洋服の可能性を模索したいというデザイナー山井氏の思いがある。
「服を”ファッション”とは別の価値観で再定義してみたかったのです。ファッション業界の一部として、服の役割をもっと考えたいなと。祭が人を繋げ地域を活気づけてきたように、その土地の文化を纏うということが、地域の仕事や活気に変わると思うのです」(株式会社スノーピーク デザイナー 山井梨沙氏)
京屋染物店は、東日本大震災があった夏に、被災地である陸前高田の人から、津波で流されてしまったお祭りのための半纏を作り直したいと相談されたそうだ。
「震災後全国的に自粛モードでしたし、ましてや被災地はお祭りどころではないんじゃないかと思っていたのです。でも、陸前高田の方は、いまこんな状況だからこそ、お祭りの力が必要なんだとおっしゃったんです。そのとき改めて、祭りやその装束は地域コミュニティを一つにする希望の光なのだと気づかされ、ぜひやらせてくださいと引き受けました」(株式会社京屋染物店 専務取締役 蜂谷淳平氏)
伝統的な祭が地域をつなぐ役割があるように、そこで使用される法被などの衣装にも、やはり地域の人びとをつなぐ役目がある。その土地の服を着ることは文化をまとうことに等しく、地域が協力して法被を作るというプロセスにも地域を一つにする力があるのだろう。ここに祭や法被というものが持つ、ファッションとは別の衣服の可能性を見ることができる。
「私達は服を作っているんじゃない。絆を作っている。文化やコミュニティを作っているんです。元来、お祭りはその当日だけではなく、地域のお母さんたちが集まってお祭りの装束を仕立てていくその過程こそが、コミュニティをひとつにする大事な要素でした。そういった循環を作っていきたいんですよね」(蜂谷氏)
LOCAL WEARのもう一つの重要なコンテンツが「LOCAL WEAR TOURISM」という地元体験ツアーだ。前回の佐渡では、伝統芸能「鬼太鼓」や田植えを体験するツアーを敢行し、人気を博した。今回は8月と11月の2回にわけて、LOCAL WEARの着想源となった鹿踊の見学や京屋染物店への訪問、地元でのキャンプなどを体験する。
11月のツアーでは京屋染物店の工房を訪れる予定だが、祭衣装に命をかける職人と接する貴重な機会になることは間違いない。人と人の絆、地域のつながりを育む祭や衣装から、これからの衣服の可能性を肌で感じられるのではないだろうか。