「ホテルはメディアである」

現在5カ所のホテルを運営する同社だが、それぞれのホテルで大小さまざまなイベントを開催しており、訪れるたびにホテルの異なる顔を見ることができる。龍崎氏はその背景に「ホテルはメディアである」という考えが存在しているという。 「ホテルは常にトレンドカルチャーを発信できる場にしたいと思っています。閉じた空間でしか一般化していないコンテンツを編集して発信・提供できる媒体なんです」(龍崎氏) そうした思想から、龍崎氏は社員の行動指針のひとつにstay streetというメッセージを掲げる。

photo byモリシタヨウスケ

photo byモリシタヨウスケ

「消費者目線、というとおこがましいですが、社会の流れの中に身を置いて嗅覚を研ぎ澄ませていかないといけないと思っています。従業員もみんな若いですが、それぞれ旅行が好きだったり、遊びが好きだったりして、つねに仕事としてではなく、消費者の感覚を忘れないようにしています」(龍崎氏) 「音楽フェス平成ラストサマー」はもちろんのこと、“積ん読解消パック”のようなコンテンツを社内外が一丸となって考えられる体制は企業という縛りを超えて、同じ趣味の元に集まるコミュニティーそのものだ。龍崎氏はもちろんその中心にいて、アイデアを投げかけるのはもちろんのこと、経営視点でコンテンツを見ることも彼女の重要な役割だ。 経営視点でのコンテンツについて語る龍崎氏 「ただ面白いコンセプトを考えているとか、利益を削ってでもこだわりを持つとか、そういうわけではありません。いいコンセプトを作ることと、ビジネス的にうまくいくことは決して矛盾しないんです。 『平成ラストサマー』イベントもホテルが満室になったという点では経営的にもいい施策だし、“原稿執筆パック”も元々は閑散期のアイデアとしてスタートしたものです。もちろん宿泊代は適正価格をつけるし、いいコンテンツならきちんと利益を取ることができるんです」(龍崎氏)

宿泊は“ちょうどいい”コンテンツになりうる?

取材を通して見えた彼女の思想はこうだ。そもそもホテルはメディアである。ただ宿泊する場ではなく、一般化していないコンテンツを大衆に向けて発信するための場所だ。しかも、雑誌を読むとか、カフェに行くとか、そういった日常の一部とは違い、知らない土地で、自分の一晩を過ごす場所。なんらかのコンテンツを体験するにも十分な時間が確保できるメディアだ。今回のような音楽はもちろん、映画でもファッションでも、組み合わせるコンテンツの幅も広い。 ただ、それだけの深い体験を与えるからには、きちんとルーツのあるコンテンツが必要になる。だからこそ、社員だけでなく時にはツイッターのフォローやファンをも巻き込んで、自社らしい、そしてファンが求める、経営的にも健全な“ちょうどいい”コンテンツを探し続けなければいけない。そこに龍崎氏が掲げる「Stay Street」という理念の真意があるわけだ。 “ちょうどいい”コンテンツについて語る龍崎氏 「ホテルは数こそあれ、選択肢は少ないんです。価格などの定量的な違いはあれど、定性的な違いがありません。だから、ホテルの持つ質の高いストーリーがもっと増えればいいと思っています。自分一人ではそれができないので、少しでもその原動力になると嬉しいなと。そんな思いでホテルをやっているのかなと思っています。」(龍崎氏)

■Weareコミュニティメンバー募集中! ご登録いただくと、新着記事情報や 会員限定シークレットイベントの招待など定期的にお届けします。 コミュニティメンバー登録はこちら(無料)