下北沢K2の大高氏

大高健志:Incline LLP役員/Motion Gallery代表

土地の歴史と構造から見える下北沢と文化の関係性

ー大高さんから見て、下北沢とはどのような街なのでしょうか?

大高:マイクロな文化がたくさんあるエリアだと思っています。特に少し前だと、いわゆるサブカルチャーが根付く場所でした。今は日本全体で、メインカルチャーやサブカルチャー、カウンターカルチャーといった概念が薄れてきていることで、下北沢もより裾野が広がり、結果的に若い人たちが遊びに来ることが増えてきている印象を受けていますが、多種多様な文化が入り混じっている点はあまり変わっていないのかな、と感じています。

 

ー下北沢は文化との親和性が強いイメージですが、その理由はなぜだと思いますか?

大高:大きくは2つあると思います。1つは本多劇場をはじめとする劇場や、ライブハウスがたくさんある点です。劇団の方が演劇をしたり、アーティストの方がライブを行なったりしていて、有名になっていく人たちも少なくない。そうした中で、演劇や音楽といった文化は昔から下北沢には根付いていたんだと思います。

もう一つは、街の構造上、道が狭く、車が通りづらい点にあります。今、新しい街作りで注目されているスペイン・バルセロナなどでも、街に車を入れないようにすることで、結果歩行者が自由に屯する空間が生まれ、それが誘引して新しいカルチャーが生まれていると言われていますが、下北沢は自然にそうした街となっているような気がします。車が入れない小道に小さい個人店が開かれ、色々な人が集まっている。近場にある渋谷や新宿といったターミナル駅のあるエリアではあまり見られない店舗や文化が生まれている印象を受けています。

 

ー様々な文化がある下北沢ですが、映画の側面はあまりなかったようにも思います。

大高:そうですね。下北沢の映画館は、現在は下北沢トリウッドさんだけ。他の映画館は今はすべてなくなってしまいました。渋谷や新宿に出れば大型の映画館やミニシアターが集積していることも一因にあるのかもしれません。

K2の外観

K2外観。カフェなども併設されている複合施設(tefu) lounge内にある

映画と下北沢の親和性は高いのか?

ーそのような中で、下北沢にK2をオープンするのはチャレンジングなことのようにも思いますが、どのような経緯があったのでしょうか?

大高:下北線路街の再開発の中で、ミニシアターも新しい街作りにおいて文化施設として必要ではないかという議論が出て、私にご相談頂いたところからスタートしています。

今までの下北沢での映画館の動向を見るとチャレンジングなことだと思いますが、映画には演劇的な側面や音楽的な側面もあり、下北沢とは親和性が高いとも思っています。そんな下北沢に映画という文化を根付かせることができれば、ゆくゆくは他の文化にも影響をもたらせるはずだし、新しい映画ファンの獲得にもつながっていくのではないかと考えています。

 

ーK2で上映する作品の選定において、心がけていることはありますか?

大高:K2では国内外、新旧、洋画邦画問わずいろいろな映画を上映していますが、その背景はいくつかあります。まず第一に下北沢に遊びに来る人だけでなく、街に住んでいたり、何か活動をしたりしている方々が、「自分たちの映画館だ」と思ってもらえるような作品選びにすること。下北沢がロケ地になっている作品や、演劇・音楽といった文化に関連性のある作品を積極的に上映していますね。もちろん下北沢に遊びに来るような若い方々にも、「足を運びたい」と思ってもらえるような作品選びやアプローチも心がけています。

また、作家と観客が出会う場でもあり、観客の方と繋がれるような場となれるといいな、とも思っています。僕が代表を務めているクラウドファンディング・プラットフォーム「Motion Gallery」で制作費を集め、世に広がった「カメラを止めるな!」という作品がありますが、K2も若い作家さんが世に出て、成長していくような場所にしたいと考えています。

K2の館内

K2館内の一角。様々なジャンルの映画を上映している

K2が構想する、現代における”ミニシアターブーム”の作り方

ーK2は”文化の共有地(コモンズ)”というコンセプトを掲げていますが、そのコンセプトに行きついた経緯も教えてください。

大高:様々な文化や人が集積している下北沢で、音楽や演劇、ビジュアルアート、エンタメなどの側面を持つ作品を上映する映画館は文化的な共有地として機能させることができるのではないかと考えたのがきっかけです。

かつて「ミニシアターに行くことがおしゃれ」といったファッション的な見方をされていた時代がありました。映画ファンだけでなく、いろいろな文化のバックボーンを持つ人たちがミニシアターには訪れていたんです。いわゆる”ミニシアターブーム”ですが、これはある種の”文化の共有”だと思っていて。様々な文化が入り混じっている下北沢で同じような現象を再び起こせれば、若い方たちを惹きつけることができ、結果的に裾野が広がっていくのではないかな、と思っています。

ただ、現代においてはお客さんの性質も少し変わってきています。以前は作家が作った作品を観客が享受する、といった形で、論評やニュースなどがきっかけで映画館に来る人が多くいました。ただ、僕が運営しているクラウドファンディングなどでも実感しているところですが、現在はみんなで作品の制作に関わりを持つ機会があることでSNSなどで盛り上がり、作品が広まっていくことが増えています。これも”共有”だと考えていて、K2としても、お客さんが作品に関与できるような仕組みを設計できればと思っています。

 

ー「お客さんが制作に関与できる仕組み」について、具体的な構想はありますか?

大高:来年からスタートする予定の会員制度でお客さんとの共創関係を作れればと思っています。一般的な、チケットがお得になるといった要素だけでなく、例えばオールナイトなどの比較的自由に作品を選べる上映の中で、「どんな作品を上映したら良いか」を会員の方と一緒に考えるといった機能なども盛り込む想定です。会員制度の仕組みがうまく回っていけば、”文化の共有地”としてK2もさらに機能できるのではないかと考えています。

オープンしてからこれまでは、安定して良い作品を上映してくことに注力してきました。コロナ禍の中でK2の構想はスタートしていたのでハードルは高いな、と思っていましたが、一定程度お客さんにもK2の存在が浸透してきているし、評価もされているのかなと思っています。来年からは会員制度も加えて新しい映画体験を届け、街の人たちに愛される場所にしていきたいです。

インタビュー中のK2大高氏

ミニシアターは、文化と映画の多様性を支える存在

ー現在はネットフリックスなどの配信サービスも存在します。そうした中で、ミニシアターの存在意義はどのような点にあると思いますか?

大高:ミニシアターで上映するような作品が、配信サービスでは意外と存在しないこともありますが、ミニシアターとして提供できる体験が文化的な側面が強い点もあると思います。それなりの集客が必要な大型の映画館と比較すると、商業性を度外視した作品を選択できることもあるミニシアターは、お客さんの視聴態度としても、作品としても、文化的な要素が強く出やすいと思います。ミニシアターの作品は、一定以上の集中力も必要で、配信サービスではなかなか最後までちゃんと見ることができないような感覚もあります。

また、「商業性を度外視できることもある」ということは、新しい作家さんの発掘にも繋がります。例えば、今では有名な監督も、初作品はミニシアターでの上映で、観客は1人しかいなかったといったケースもあり、作品と観客との出会いを多様に作れる場所としてもミニシアターは機能していると思います。

そういった、文化と映画の多様性を支えているのがミニシアターだと思っています。K2としても、多様な文化が混在する下北沢で”文化の共有地”として街を盛り上げていく一役を担っていきたいです。