アパレル企業から買い取った服のブランドタグをはずし、「Rename」というブランドタグを付けて再販をするーー。アパレルの買取・販売をおこなうFINEが2016年にはじめたRenameという新事業は業界内で大きな話題となった。アウトレットでの格安販売によるブランドのイメージ毀損を恐れるアパレル企業にとって、タグをはずして再販をするというのは余剰在庫をなくすためにも画期的なアイデアだ。しかしアパレル企業側は、“別ブランド”として販売されることに抵抗はなかったのだろうか。FINEの加藤ゆかりCEOはこう答える。
「サービスローンチのニュースがメディアに取り上げられた時、もっとバッシングがあると覚悟していましたが、予想外にアパレルからはかなりいい反応だったんです。『これなら再販ができる』と言ってくださる大手企業も出てきました。バーバリーの廃棄問題によって、とくにここ一年くらいでサステナビリティへの注目度は増しています。格安販売による“ブランド毀損”を避けてきたアパレル企業が、在庫廃棄によって“企業ブランドの毀損”を考えなければいけなくなったことが非常に大きいと思います」(加藤ゆかり/FINE CEO)
「値下げ」と「ブランド価値の維持」を共存させるためのアイデア
FINEはもともと不動産営業をしてきた加藤ゆかりCEOが2008年に知人と共同創業した会社。当初はCDやDVDの買取・リユースショップなどへの卸売が事業の中心だったが、音楽のデジタル化にともなう需要低下によって経営は低迷。加藤CEO単独で、9000万円の赤字とともに、アパレル事業へシフトする形で会社を継続した。
「アパレル企業にとって重要なのはブランド価値。好き勝手再販をして在庫をなくせばいいというわけではありません。だから、これまでほとんどのアパレル企業は余剰在庫を廃棄しているという現状でした。CDはネットで調べれば相場もすぐにわかるし、効率的に余剰在庫を販売することができましたが、アパレルにおいてはそうもいきません。わたしたちはかなり細かい販路などに関する契約書を結び、アパレル商材の再販をおこなってきました」(加藤CEO)
ブランド価値を維持するためにも、大幅な値下げや自由な再販はできない。悩んだ末に加藤CEOが生み出したのが、タグを付け替えて再販するRenameだった。2016年に偶然とある大手企業から「プライベートブランドが予想に反して大量に余ってしまったが、そのままでは再販できない」という相談を受け、このRenameを試験導入することになる。結果、余剰在庫を全て消化できたという。これ以降本格的にRename事業を開始し、ECモール「ロコンド」などでもRename商品の販売をスタートした。
「わたしたちはモノ作りの会社ではないので、仕入れ元であるアパレル企業と一緒に生きていく方法を考えなければいけません。洋服は食品と違ってシーズンを過ぎても腐りはしません。単縦に捨てるのがもったいないと思ったんです。アパレルの素人だったからこそ、考えついたアイデアなのかもしれません」(加藤CEO)
タグをはずすのではなく“付け替える”ことに意味がある
Renameでは、もとのブランドタグをはずすだけでなく、必ずRenameというタグをつけて販売する。ここには「消費者に商品の背景を伝える」という目的がある。
「一般的なワケあり商品として格安で販売するのではなく、もともとは別のブランドであったことを消費者に伝えられるようにRenameのタグをつけています。Renameというやり方が正しいかどうかを決めるのは業界ではなくて消費者。だからこそ、消費者にも選ぶ側としてきちんと洋服の価値を見極めてほしいんです」(加藤CEO)
加藤CEOは先進事例としてアメリカのD2CブランドEVERLANEをあげる。EVERLANEではセールをしない代わりに、一定期間売れ残った商品は“アウトレット”として消費者が決めた値段で販売する制度をもうけている。生産工程の全ての価格情報を公開する透明性が特徴のEVERLANEでは、消費者が製品について考えられる環境をつねに作り出しているという。消費者がアパレルの生産背景に思いをめぐらせること。加藤CEOは、これこそがサステナブルな流通に欠かせないと考える。
サステナビリティは目的にすべきものではない
Renameが目指すのは“自由にファッションを楽しめる世界”。自由に洋服を作って、捨てられることなく、きちんと流通されていく自然なサプライチェーンだ。たしかにRenameでは、これまで販路を制限する要因となっていたブランドネームを取り去ることで、ブランドの垣根を超えた流通を生み出しているといえる。
「今の時代、新品も中古もアウトレットも、全てが共存しています。一方で、ブランドにしかできない提案もあります。いずれRenameが新品・中古にならぶアパレル業界の一つのカテゴリになればうれしいなと思います」(加藤CEO)
そんな加藤CEOにサステナビリティの捉え方を聞くと、「サステナビリティは決して目的にすべきものではない」と強調する。
「ブランドが描きたい世界観を考えた時に、その目的の達成のためには、結果的にサステナブルである必要があると思っています。業界全体が共存・持続していくためにも、あらゆる弊害を取り除いていくことが重要で、サステナビリティはそのための手段です。もちろん、そのためには最終的に価値を感じてくれる消費者も重要なポジション。サプライチェーン全体と消費者までもが融合し、循環していく世界をRenameとともに作っていきたいと思います」(加藤CEO)