きっかけは、海外で目の当たりにした放棄されたレジ袋の山。些細な実体験から生まれた一つのプロダクト
ー「ベータポスト」を立ち上げた経緯を教えてください。
江崎:もともと「エド ロバート ジャドソン(ED ROBERT JUDSON)」というブランドでバッグや財布などのプロダクトを作っていたのですが、その実験的なラインとして「エド ロバート ジャドソン ベータ」を立ち上げたのが始まりでした。「エド ロバート ジャドソン」は「ファスナーに変わるモノは何だろう」と考えてバネに置き換えてみる、などといった機能やディテールを起点としたモノ作りなのに対して、「エド ロバート ジャドソン ベータ」はもう少しコンセプチュアルな表現をしていこうと考えたんです。
その後、「エド ロバート ジャドソン ベータ」のプロダクトを作っていく中で、小物以外のジャンルにも発想を活かせるのではないかと感じました。ただ「エド ロバート ジャドソン」という傘の下では、どうしても制限されるところもあって。「ベータポスト」と名前を変えて、別のブランドとして立ち上げることにしました。
ー「もう少しコンセプチュアルな表現をしたい」と考えたきっかけはあったのでしょうか?
江崎:使用済のレジ袋にハンドルとして装着することができる”PLASTIC BAG HANDLE”というプロダクトがきっかけでした。身近で手に入るレジ袋は色々なデザインがあるためをファッションとして楽しみながらもレジ袋の問題に向き合える、といった前向きな考えが背景にあります。このアイテムを機に、モノにフォーカスするだけでなく、コトにも重きを置きたいと考えるようになっていきました。
ーブランド公式サイトのABOUTページでは、”The Ocean as told by a Seashell”といったメッセージを掲げていますよね。このメッセージもブランドのコンセプトに繋がっているのでしょうか?
江崎:そうですね。「貝殻で海を測る」ということわざがあり「小さな貝殻で海水をすくい、海全体のことを知る」という意味で、「ちょっと知っただけで全部分かった気になる、浅はかな状態を表す」といった意味を持ちます。ただ、べータポストの思想としては「貝殻ですくったちょっとの水にもマイクロプラスチックなどが入っているほど海洋汚染が進んでいるのだから、知ったかぶりでも行動を起こそう」といった本来とは異なる意味を込めています。
”正解”ではなく”問い”を提示する。モノ作りに通底する姿勢
ーサステナブル性も意識してモノ作りをされていると。
江崎:「ベータポスト」のモノ作りは、消耗品をどのように延命させようか、という思想からスタートしています。
ただ、僕らとしては、環境の保護が重要だから、みんなも意識しよう、といった形ではありません。物事は角度によって捉え方が異なるので、自ら「これが正解」として発信することよりも、あくまで問いを生み出し、「見る人に気付きを与えたい」という感覚の方が強いです。例えば”PLASTIC BAG HANDLE”も、レジ袋ありきの製品なので、「レジ袋の使用そのものを止めよう」といった文脈の中では無意味なモノです。でも、「ゴミとしてすぐに捨てることの方が問題なのではないか」と考え、レジ袋との付き合い方に対する一つの問いとして提示するために制作しています。
ーアパレルに関しては、どのような”問い”のもとで制作しているのでしょうか?
江崎:例えば、エアパッキンをモチーフに制作したファブリックを裏地に取り入れたリバーシブルのコートや強度の高いハイテク素材をビニール紐に見立てて取り入れたアイテムなどがあります。エアパッキンやビニール紐は消耗が早いこともあり、衣服に取り入れられることは通常ないと思いますが、それらを耐久性のある素材で再現して普段から身につけ意識を持つことで、実際の消耗品にも新しい使い道があるんじゃないかという考えから制作がスタートしています。
ー小物にもアパレルにも、消耗品を延命させる、という軸があるのですね。
江崎:そうですね。ただ、別のアプローチで制作している実験的なプロダクトもあります。その一つに、バッグになるベストがあります。形はハンティングベストをベースにしていますが、ファスナーを閉めるとバッグにもなるので、暑い時は脱いでバッグにするなど、色々なシーンに寄り添って使用できます。ベストとして使う際は「バッグを着ている」という着用者本人にしか分からない独特な感覚もあると思います。
何よりもまず重要なのは「楽しんでもらえること」
ー様々な形でユニークなプロダクトを制作されていますが、”問いを生み出す”こと以外にモノ作りの上で重視されていることはありますか?
江崎:身につけるものである以上、着心地や耐久性といったクオリティ面ももちろん重視していますが、何よりもまず楽しんでもらいたい、という気持ちが根底にはあります。奇を衒ったものでなくあくまでデイリーに普段使いできるようなモノ作りを意識していますね。
ー今後、作ってみたいプロダクトなどはありますか?
江崎:先々のことは構想中ですが、直近だと2024年秋冬シーズンはミリタリーをベースに、軍事的な背景のあるデザインを日常生活においてユーモラスで役立つものに置き換えることをコンセプトに制作しています。
例えばフライトジャケットは戦闘機ではなく、旅客機用として置き換えています。快適な空の旅を手助けできるよう、ジャケットの襟にエアピローが収納されており、機内では空気を入れて寝ることを可能にしています。
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江崎:今のファッションサイクルはやや消費に偏っているのではないかと感じています。そういった中で、単なる消費ではなく、コンセプトなどをしっかり伝えることに重点を置き発信していく方法を模索していきたいな、と思っています。
例えば、一つのプロダクトを探求して作り続け、日々アップデートを重ねていく、といった家電的な方法もあるかもしれないし、ユーザーにダイレクトに伝える手法ももっとあるかもしれない。”問いを生む”という軸は崩さずに、僕たちができることは何か、考えていきたいなと思っています。