衣食住でも”衣”はまだ「つくる」という選択肢が一部に限られている
無機質なコンクリート空間に、ミシンの音が響く。3Dプリンター、テキスタイルプリンター、刺繍ミシン、裁断機など、最新の機械がずらっと並ぶ。プロから一般の人まで幅広い人に、朝から夜までいつでも誰でも服が作れる環境を提供している。 篠原ともえ、モデル・マリエなどの芸能人、またコレクションブランドKEISUKE YOSHIDA、RYOTA MURAKAMI、PERMINUTE、MIKIO SAKABEなどのデザイナー、女子高生、ショップ店員、専門学校生…様々な人が出入りする。 運営するのは、日本を代表するキャスター古舘伊知郎氏が所属する古舘プロジェクト。なぜ、ファッションに切り込んだのか。 「テレビで、家のリフォームやインテリアのDIY特集とか頻繁にやっていますよね。料理番組や料理本も昔からある。けれど、服に関してはまだ、一部の人の趣味として”お裁縫”の領域を脱してない。つまり、衣食住の中で、”衣”だけがまだ可能性にあふれている」(荒木氏)
自分の作った一着から自分の「ブランド」へ
「服は「買う」から「創る」へ。」andMadeのキャッチコピーだ。カルチャー作りのために、様々な仕掛けをしてきた。 andMadeを舞台に、こんどうようぢなどのティーンズ男女が恋愛とファッション製作を繰り広げるリアリティーショーをabemaTVで企画放送したり、古舘伊知郎を審査員に迎えた「究極のピーコートコンテスト」を開催した。 「普通の人は、服って買うものだと思っていますよね。ファッションが好きというだけで、知識がなくても創ることができる環境をつくれたらと思っています。 最初は自分が欲しいものを創るということでいいと思うんです。でも、自分で作った一着は手作り品に過ぎないですが、そこにタグをつけることでブランドになる。ブランドということを強く意識することが、ものをつくることにおいて大事だと思っています」(荒木氏) もちろん、自分でミシンを踏みたい人には十分な環境も提供しているが、それだけでは服作りの知識がない人にとってのハードルがまだまだ高い。今後は、andMadeに集まる”服作りができる人”と、”売れる服がプロデュースができる人”をマッチングする仕組みづくりを進めている。 「例えば、Instagramでお店の服を着て発信するとすぐに売れる、人気ショップ店員さん。その彼女が、いま一番可愛いと思うトップスとボトムスのイラストを描き、服を作れる人がすぐにサンプルを作ってもらう。それを着てInstagramで発信し、欲しいと反応した人の分だけ量産する。 これって、いわゆる普通のファッションのサプライチェーンと逆ですよね。100人に届けられる人が100ブランドある。そんなミニマムな商圏ができていくと思っています」 展示会や受注会などを開くことができるギャラリーとして解放するなど、服を創って売るところまでをここでミニマムスタートできるということだ。
「個」が表になっていく未来に向けて
20年後のファッションはどうなっているかと問うと、荒木氏はこう話した。 「いまは個人が表に出ていく時代です。自分の服は自分で作るという世界になっていると思います。というか、なっていて欲しいですね。3Dプリンターやホールガーメント、マッチングなどのテクノロジーが進んで、一着あたりの値段も下がっていくでしょう。そうですね、もはや5年後かもしれません」 「一方で、ファッションはどこまでいってもニュアンスの話なので、全てが機械化されるということはない。だからデザイナーやブランドへの憧れはなくならないと思っています。その両立になっていくような気がしています」(荒木氏) 誰もが一度は、「こんな服があったらいいのに」「こんな服を創ってみたい」という考えが、頭をよぎったことがあるだろう。衣服はとてもパーソナルなもので、人それぞれ全く違う趣味嗜好と身体性を持っているからこそ、その欲求は普遍的だ。 テクノロジーが迅速に進化するこれからの時代、それは全く夢物語ではない。服を創ることも売ることも、自分の感性と意思さえあればいい。andMadeのような場所もあれば、マスカスタマイズも進み、もっとファッションが楽しいものになることは間違いないであろう。