HTV-Xには宇宙ステーション船内船外で使う国際宇宙ステーション(ISS)計画に不可欠な大型機器や宇宙飛行士の生活を支える荷物が搭載される。これを種子島宇宙センターから打ち上げて、ISSに届けることが、JAXA HTV-Xプロジェクトチームのミッションだ。

HTV-XのCG

・新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)の機体内部の透過イメージCG(提供:JAXA)

HTV-XのCG2

・HTV-X(右)と先代「こうのとり」(左)の最終荷物搭載作業のイメージ図(提供:JAXA)

HTV-Xプロジェクトチームは、HTV-Xの計画立案、開発から運用までを取り仕切る役割を果たしている。

特筆すべきは、運用のアクションだけではなく、そこに至るまでの開発や試験などを全てこのチームでディレクションしているということだ。

「数百社もの企業や多くの人々を取りまとめ、数年間かけて設計、製造、試験を行います。1号が開発から運用に進む間に、2号機、3号機の開発や将来に向けた計画検討も次々と進んでいきます。それら全てのディレクションを、私たちのチームが担っています。」(若月氏)

宇宙に物資を補給するミッションの確実性を高めるために、大小に関わらず全てのパーツや試験が重要だ。そのため、プロジェクトに関わる多数の人や企業はどれも欠かすことができない。

HTV-Xメンバー1

・運用管制室での仕事の様子。各専門チームや多くの企業との綿密な連携なしに、ミッションの成功はない。

HTV-Xの運用チームは、リーダーであるフライトディレクタを中心に、航法誘導・軌道、推進系統(エンジン)、キャビン環境、電気・熱系統、通信・データ処理などそれぞれの状態監視・技術評価・運用管制を担当する約20のセクションの人員で構成されている。

「フライトディレクタは運用における現場責任者として、開発を担ってきた技術チームやNASA、ISSに滞在する宇宙飛行士とも連携し、ここ運用管制室でHTV-Xの運用全体を率います。」(近藤氏)

臨場感溢れるNASAとの合同シミュレーション

HTV-Xの運用精度を高めるために、運用管制室では、事前に幾度ものシミュレーションが行われる。

シミュレーションでは疑似的に不具合やトラブルが次々と引き起こされ、その環境でいかに冷静に対処できるかが問われる。

「シミュレーションは、発生した不具合やトラブルの要因を速やかに分析し、どんな優先順位で対処するか一つずつ判断します。ISSまで無事に物資を届けるところまでを、幾度となく訓練します。」(中野氏)

シミュレーション時には宇宙飛行士の役割を演じるメンバーのほかHTV-Xを迎えるISS全体の運用を行うNASAのメンバーも入り、言語で訓練を進めることとなる。また、シミュレーションで意図的に不具合やトラブルを引き起こす裏方のメンバーがおり、彼らは「ダークサイド」と呼ばれているそうだ。

HTV-Xメンバー2

・運用管制室での綿密な訓練が、ミッションの成功を左右する。

HTV-Xメンバー3

・フライトディレクタの中野氏。的確な現場の総指揮と複雑なディレクションを実行している。

チームの一体感と推進力を高める施策

HTV-Xに関する各機能の開発や、ハードなシミュレーションなどが同時並行で進んでいる。HTV-Xプロジェクトチームはこれら全てをコントロールしなければならない。そのようなカオスの中では、メンバー全員がコンセントレーションを高め、ミッションに挑む必要がある。

そうした状況下で、HTV-Xプロジェクトチームではメンバー全員の一体感と推進力を高めるために、チームブランディングを「リファイン」する取組みを立ち上げた

HTV-Xの運用は、運用管制を行う運用チームと、技術評価等を行う技術チームの主に2チームで構成されている。「リファイン」の取組みは先代「こうのとり」の運用時に2チームが別々に使用していた2部屋の運用管制室を1つにする改装作業から始まり、続けて、「ミッション・マーク」と「ミッション・ウェア」の整備を行った

HTV-X過去

・以前の運用管制室(技術チーム側)とチームウェアの様子。作業着風のウェアには職人的な良さはあるものの、機能性に欠けるという課題もあった。(提供:JAXA)

HTV-X内観

・リファインされた運用管制室の内観。

HTV-X仕事風景

・リファインされた運用管制室での仕事風景。(提供:JAXA)

ミッション・マークに込められた想い

HTV-Xロゴ

(提供:JAXA)

「私たちが意義あるミッションを負っていることはメンバー全員が理解しています。ですが、多忙な中だと、つい蔑ろになってしまうこともあるため、『ミッション・マーク』には強い想いとこだわりを詰め込んで、作成しました。」(若月氏)

ミッション・マークには9つの星が散りばめられており、それらの色は先代「こうのとり」9号機までのミッションカラーとなっている。

さらに、HTV-Xが将来的に活躍する場所として期待されている「月」に真っ直ぐ通じる道筋が、シンメトリーに表現されたデザインとなっている。

メンバーのモチベーションを上げるミッション・ウェア

ミッション・マークに続いて、それを大きく掲げた「ミッション・ウェア」が作られた。

「これまでのチームウェアは、いわゆる『作業着』でした。試験や現場作業などの一部の業務を除き、チームの全員が、ほとんどの時間において作業着でいる必要はありません。極論スーツでも良いのですが、『我々のミッションのために最適化された格好』を考えた時に、1番の優先事項は『格好良くしたい』でした。」(若月氏)

HTV-Xユニフォーム1

・軽量で疲れにくく、立体的な構造で機動性も高いミッション・ウェア。着用すると「やるぞ」という気持ちになる。

HTV-Xユニフォーム2

・“Galaxy Black” のカラーで統一された空間とミッション・ウェア

HTV-Xプロジェクトチームでは、運用管制室でシミュレーションや実運用に臨む際にはこのミッション・ウェアを着用する「ドレス・コード」を制定した。それにより一体感やモチベーションの向上に大きく役立ち、チーム力の底上げに繋がる。また、海外からも強い要望があり、NASAのメンバーも着用しているということだ。

一緒に仕事をしているNASAのメンバーも着用してい、各国のパートナー企業も ”Cool” と言ってくれるなど、グローバルでの一体感が高まりました。またJAXA内の他プロジェクトからも評判が良いです。いわゆる『作業着』ではない今回の『ミッション・ウェア』のような私たちの活動が、他チームの自由な表現を促すような、いい刺激になることを期待しています。」(開出氏)

宇宙と未来に届けるミッションとインパクト

「HTV-XはISSへの補給というミッションの先に、『ゲートウェイ』と呼ばれる月周回有人拠点への物資補給も期待されています。これは先代『こうのとり』のスペックでは実現できなかったことです。」(近藤氏)

有人宇宙開発と言うと、どうしても宇宙ステーションや宇宙飛行士にフォーカスされることが多いですが、これらの裏には、補給機の技術が欠かせません。生活用品、食料や飲料、実験のための資材が補給されて初めて、宇宙空間での生活や活動が実現できるです。」(中野氏)

多くの人々が日常的に宇宙にいることが珍しくない日が、遠くない未来にやってくる。
ドレス・コードで一体となり、未来を切り拓くHTV-Xプロジェクトチームの活動に今後も目が離せない。