縫製のプロも頭を抱える、クロマ「シェルターコート」の難易度
佐藤:ほんとね、初めパッと見たときに、どこから手をつけようかなっていうのは思ったよね(笑)。
鈴木:本当にありがとうございました。なかなか縫ってもらえる工場が見つからなかったので、アパークスさんに受けてもらえて、本当に良かったです。
佐藤:パーツの数がまずすごいよね。ウチは長年縫製業をやってきたから、パーツを見たら頭の中で大体の組み立てがわかるけど、これだけ数があったらかなり時間がかかるんだろうなっていうのは、最初のデザイン画を見て思ったね。
佐久間:パターンで言うと50枚くらいありましたね。
佐藤:そうだよね。その量のパターンを作れるのもすごいと思ったのよ。
鈴木:佐久間はCADでのパターン製作のやり過ぎで、手首が腱鞘炎になってましたね(笑)。
佐藤:パターン約50枚で半身分だから、1着作るのに100以上は縫い合わせないといけないってことだね。それだけの数があると、工程の順番をうまく組まないと最後縫い合わせられなくなってしまうから、そこをどうするかは苦心しましたね。
現代ファッションにおける「差別化の重要性」
佐藤:今回のシェルターコートもそうだけど、大変な工程を丁寧にやっていくことで、完成度の高い商品ができるよね。他の人がやってないことをするっていうのが、今ものづくりの世界で必要なんじゃないかなと思う。みんなが一緒のものを作ったんじゃ、価格競争になるばっかりだしね。「良いものを良いプライスで売る」っていうのは昨今なかなか難しいけど、そこを目指すっていうのはこの仕事の面白さだと思う。
鈴木:そうですね。今のアパレル業界は、ある程度良いデザインがすごい安い価格で買える時代。その中でクロマみたいな小規模ブランドが存在する意義は、「クリエイターのエゴ」を出すことなのかなと思います。工場さんに苦労をかけることもありますが、そうしないとブランドも成長して恩返しできないので、チャレンジしていきたいですね。
ただ、「エゴ」を受け止めてくださる工場さんも、どんどん減っていると感じます。このシェルターコートを縫ってくださる工場さんを探して何社もあたっていたのですが、全部断られてしまって。「自分がエゴを出しすぎたせいで、この服はもう世の中に流通させられないのかも」と、半ば諦めていましたね。そんな中、シタテルクラウドにマッチング機能があることを知り、募集をかけてみたところアパークスさんにお返事いただけた。
佐藤:そうだったね。差別化をするために、「他では縫えない、ウチしかできない」ってところを目指しているので、こういうアイテムはチャレンジする価値があると思って応募してみた。まあそのあとは大変だったけどね(笑)。でも成長の肥やしになったと思うから、とても前向きに考えてる。
ファッションにおける「コピー」をどう捉えるか?
鈴木:最近のファッションアイテムは、ハイブランドも含めて、昔より工程数やパーツ数が少ないように感じています。例えば、20年前のドルチェ・アンド・ガッバーナを見ると、ものすごい数じゃないですか。
佐藤:昔は職人さんが手間をかけてやってたからね。町の洋服屋さんが、オーダーメイドでジャケットを作ったり。職人さんはすごく拘ったものづくりをしてたから、パターン数も多いし、見えないところにもすごく時間がかかってる。現代の工場は真逆で、できるだけ効率化をする力学が働くよね。今は安く作らないと市場が受け入れてくれないから、ジレンマもある。ただ、「簡単に作れてよく売れるのが一番いい」って価値観も変わってきてるんじゃないかな。ウチは無駄なものを作らず、長く使ってもらえる、できるだけ廃棄が減るようなモノづくりを目指していきたいと思ってる。
鈴木:そうですね。ただ一方で、「良いデザイン」のコピーみたいな商品が、パリコレの1か月後には中国のWebサイトで買える状況があったりもします。ファッション業界は世界的に、サステナブルなモノづくりをしていこうって動きがありますが、同時に真逆の、服を「ライトな情報」として消費する傾向が加速している側面もあるなと感じてます。さっきの話で、デザインを簡素化をしていったらコピーしやすくもなるし。
佐藤:確かに、コピー元がすごく難しいモノだったら、なかなかコピーもできないよね。まあ服っていうのは、そもそも真似しやすい商材だよね。良いデザインがコピーされて安く大量に売られることで、流行が生まれる。それはファッションの楽しい面でもあるから、権利的な側面を無視すれば必ずしも悪とは言えないよね。
鈴木:私がデザインしている服も、元をただすと人類が築き上げてきた衣服製作のノウハウの礎の上にありますからね。「シャツって誰が発明したの?」って思うじゃないですか(笑)。そういう過去の恩恵を受けていると思うので、仮にクロマのデザインがコピーされたとしても、「ファッションってそういうものだよな」って割り切るしかないと思います。
佐藤:類似品が流行ったときに、オリジナルを欲しがるお客さんもいるわけで。そうなればオリジナルの価値が上がるかもしれないしね。そういう本物志向の人は最近増えてきたんじゃないかな。その層に我々は商品を提供していきたいよね。
そのためには手間がかかる仕事もやってみる。失敗もあるけど、それの繰り返しで、やっぱり技術が付いてくるものだと思うんで。この想いを従業員にも伝えたいから、難しい依頼でも一度は検討するようにしてる。
鈴木:素晴らしいですね。僕たちブランドも日々ゆとりはないですが、そんな中で新しいチャレンジを無理してでもやっていかないと成長していけないし、精神的にも停滞してしまうので、チャレンジの大切さは痛感してます。
佐藤:そうだね。理想と現実はあるけど、そういう気持ちは持っておかないとね。今回のシェルターコートの話も含めて、ちょっと大げさだけど、日本のファッションの未来を担う人材を育てていかないといけないと思ってる。若いデザイナーとか、チャレンジする人の想いを汲んで、一緒に仕事するなかでうちの技術も上がっていく。我々はそんな気持ちで、日々工場を運営してるね。