「社歴が浅い方が顧客に目線が近い」。チャンスが平等に巡る社風

この日、取材に答えてくれたのは、ソニーストア 銀座店のスタイリストである柘植恒輝さんと井口優華さん。入社2年未満にもかかわらず、全国の直営店で着用されるユニフォームを制作するという“大役”を任された二人だ。

 

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(左)柘植恒輝さん  (右)井口優華さん

「最初は『分かりました』と二つ返事でした。でも、他店のスタイリストや本部の社員と顔合わせを行う中で、想像以上に大きなプロジェクトだったと分かってきて(笑)。背筋が伸びる思いで携わりましたね」(柘植さん)

「お話を頂いたときの率直な感想は『なぜ?』でした(笑)。社歴が浅い私よりも、経験豊富なスタイリストの方が、ユニフォームを着用している時間は長いですから。でも、上司に『社歴が浅い人の方がより顧客との目線が近い』と言っていただけて納得しました。衣服が作られる過程を見てみたいという好奇心も手伝って、それからはワクワクしながら臨みましたね」(井口さん)

社歴に関係なく、柔軟に意思決定の機会を与える。そんな構造は、昔ながらの日本企業に見られた上意下達の“トップダウン型”とは異なる “ボトムアップ型”と言えるだろう。

意見を平等に尊重する社風だからこそ、全員が当事者意識を持って働くことができる。二人の前のめりで伸び伸びとした姿勢が、そんな考えを裏付けるようだった。

課題と哲学をキーワード化。現場の“声”を形にするワークショップ

既製品をただ新たに発注するのではなく、“スタイリストのための”服を作る。そのために、設けられたのが、2025年8月に行われたワークショップだ。目的は、現場の声を徹底的に汲み取ること。意見を平等に尊重する社風が、この催しにも現れていると言えるだろう。

シタテルが主催となり、全国のスタイリストが参加したこのワークショップでは、ユニフォームのコンセプトや、“それを着て顧客にどう思われたいか”などの「情緒的な価値」のほか、快適さや安全性にまつわる「機能的な価値」など、複数のテーマでディスカッションが行われた。

「ソニーが掲げる『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。』という企業理念を形にするにはどうすればいいのかを議論しました。具体的には、『機能性』や『顧客』『スタイリスト』などのテーマで、それぞれのスタイリストが感じていることを付箋に書き込み、一つひとつ吟味していく作業を行いました」(井口さん)

「向いている方向は一緒のはずなのですが、ディスカッションを重ねるとわずかな違いが見えてくるんです。特に、『ソニーストアをどう見せたいのか』を議論した際は、“カジュアル”と“ポライト(上品)”というニュアンスが異なるキーワードが出てきたのが興味深かったですね」(柘植さん)

 

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ワークショップの様子(写真提供:ソニーマーケティング株式会社)

ディスカッションを経て辿り着いたのが、「プロフェッショナル」「先進性」「多様性」という3つのキーワードだ。

「『プロフェッショナル』からは落ち着いたカラーリングや機能美など、『先進性』からは機能性の高さや、遊び心、未来的なディテール、直線と曲線のバランスなど、『多様性』からはジェンダーレスで個性を主張しやすいデザインや、体型を選ばないシルエットなどのイメージを膨らませました」(柘植さん)

 

sonystore_tsuge「特に意識したのは、幅広い年齢や性別の視点を盛り込んで、『多様性』の課題に向き合うことです。たとえば女性の場合、従来のユニフォームは胸元や脇の開き具合が気になるという意見が多くて。ソファーに座ったお客様に説明する際に屈んだり、棚の上のものを指差す際に腕を上げたり、さまざまなシーンに対応できるものを目指しました」(井口さん)

sonystore_iguchiひと目でわかる先進性と、行き届いた快適さ。スタイリストの新たな装い

ワークショップによって言語化した課題や哲学は、シタテルの知見や技術によって服という形に落とし込まれる。その期間にもデータやサンプルを元に、微妙な色やディテールの調整が行われた。そして2026年の3月にユニフォームが納品。出来上がったのはジャケット、ブルゾン、パンツ、2種類のトップスだ。

 

sonystore_uniformジャケットはフロントに走るメタリックなラインがアクセントに。ノーカラーのデザインや、襟元にあしらわれたロゴも目を引く。内側には5つのポケットを配置し、袖先には手首の開放感を高めるカッティングを施している。背面にあしらわれたセンターベントによって、しゃがんだ際の機動性も確保した。

パンツには2つのスラッシュポケットと、ボタン付きの切り替えポケット、スマートフォンなどを収納しやすいサイドポケットを配置。ウエストの背面にはゴムを配置し、裾の裏側には裾上げなしで最大15cmまで股下を短くできるボタンを採用。幅広い体型の人に対応するための工夫が随所に見られる。

 

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sonystore_uniform_3トップスは半袖と長袖の2種類を制作した。
半袖は襟のついたポロシャツ型、長袖はバンドカラーを採用。襟の有無を活かしてスタイリングの幅が広がるのが特長だ。
フロントにあしらわれた、シルバーのパイピングや2種類のポケットも印象的だ。素材は衣類内の温度を保つ37.5™テクノロジーを搭載した高機能なものを採用。襟元にはインカムを通すことができるループも配置している。

 

sonystore_uniform_4「先進性を感じるデザインはもちろん、パンツのウエストゴムなどの機能性ひとつとっても、これまでのユニフォームにはなかった要素を盛り込みました。細部までこだわったので、実物を手に取ったときの感動はひとしおでしたね」(柘植さん)

「これまでの日常生活で服のデザインや機能性について考える機会が少なかったので、シタテルさんと協議する上で悩む機会も多くて。ただその分、普段の接客業務ではできない学びがたくさんありました。スタイリストや本部の社員、シタテルの方と一丸となって、一つのものを作っていく。そんな経験ができて、大きく成長ができましたね」(井口さん)

“スタイリング”によって個性を演出。今、ユニフォームに求められるもの

「スタイリストが実際に着用すると、売り場の雰囲気そのものが変わって見えるんです。今回のプロジェクトを通して、ユニフォームという存在の大きさが分かりました」。井口さんはそう語る。新たなユニフォームを、他のスタイリストはどのように受け止めたのだろうか。

「デザインや機能性が大きく変化したこともあり、最初は『着慣れているユニフォームの方が落ち着く』という声もありました。しかし、ファッションが好きなスタイリストがスカーフを巻いたりと、さまざまな着こなしに挑戦し始めてからは風向きが変わって。“カッコいい服”として前向きに受け入れてもらえるようになりました。パンツのシルエットにこだわったので、個人的にはトップスをタックインして着こなしているスタイリストを見たときは嬉しかったですね」(柘植さん)

 

sonystore_tsuge_2「デザインそのものに存在感がありますし、着こなしの幅も広いので、話題に触れてもらえるようになったという声も聞くようになりました。私自身、『新しいユニフォーム、カッコいいね』と反応をいただけたこともありましたね」(井口さん)

“全員が同じ格好をする”ためのユニフォームから、着こなしによって“個性を主張できる”ユニフォームへ。その点こそが、今回のリニューアルにおける最大の変化かもしれない。

「私が入社前にソニーストアを訪れていた頃は、スタイリスト全員が一様に綺麗な格好をしてお出迎えすることで、ブランドイメージを作り出していたように感じました。その一方で今は、着こなしによってそれぞれの個性を際立たせ、“自分らしくいる”ことで、お客様とのカジュアルな距離感を演出するようになったのでないかと思います。時代の潮流によって、スタイリストに求められるものが変化しているのかもしれません」(井口さん)

 

sonystore_iguchi_2現代における上質な購買体験とはなんなのだろうか。「多くの人がWEBやSNS上で欲しいものに目星をつけた上で来店する」と井口さんが語ることから、ニーズに合う商品を購入するだけではないことが分かる。それは“ECサイトで買う”という選択肢が主流になった現代だからこそ、スタイリストとの会話が価値を生むとも言い換えられるかもしれない。アルゴリズム上ではなく“自分のライフスタイル”と向き合った上で、商品を提案してもらう。それが現代の上質な購買体験なのだ。

「商品や知識だけでなく、“プラスアルファ”の何かを持ち帰ってもらいたい。『あの人に話を聞いてよかった』と感じていただくのが、僕にとっての接客の目標です」(柘植さん)

商品だけでなくスタイリスト一人ひとりの魅力も一層求められるようになった今、着こなしで個性を主張できるユニフォームが生まれるのは必然かもしれない。お客様のライフスタイルを豊かにすることが仕事である彼らもまた、自分自身を“スタイリング”し、豊かに輝く時代なのだ。

 


 

ブランドの名を大きくあしらった服は、意外と着こなすのが難しい。
ブランドの存在感が強いほど、人よりも服が前に出てしまうことがあるからだ。
だからこそ、その服を自然に着こなしている人を見ると感じる。
その人自身が、そのブランドの世界観をまとっているのだ、と。

ソニーストアでは、スタッフのことを「スタイリスト」と呼んでいる。
お客様一人ひとりのライフスタイルに合わせて、最適な商品や体験を提案する存在だ。

ソニーの製品群は幅広い。
カメラ、オーディオ、テレビ、ゲーム—。それぞれに深い専門性があり、お客様の知識もまた深い。
スタイリストには、最新技術だけでなく、他社製品を含めた幅広い知識と、自分の言葉で提案する力が求められる。

取材中も、基本的な質問から細かな疑問まで、一つひとつ丁寧に答えていただいた。
そこにあったのは、豊富な知識だけではない。技術への好奇心、お客様への誠実さ、そして、お客様の期待を超えようとする姿勢だった。まさに自分に合う体験をスタイリングしてくれたのだ。

今回リニューアルされたユニフォームには、「SONY」のロゴがあしらわれている。
世界的なブランドの名を背負うそのユニフォームを、スタイリストの皆さんは実に自然に着こなしていた。
それはきっと、「世界を感動で満たす」という企業理念を、日々の接客のなかで体現しているからなのだろう。

 

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