Store_Exterior分断・点在していたカルチャーを束ねる”ホリスティック”な視点

「ニールズヤード レメディーズ(以下、ニールズヤード)」は1981年、当時学校の教師を務めていたロミー・フレイザーにより、ロンドンの中心部にあるコヴェントガーデンで創業された。自然豊かな環境で育ち、祖父がアポセカリー(調剤薬局)を営んでいたというバックグラウンドを持つロミーは、ナチュラルアポセカリー(自然療法薬局)として、ハーブや天然由来の成分を使った薬剤やスキンケア製品の販売を構想。当時のイギリスはハーブやアロマ、薬などを総合的に扱う店舗が存在せず、専門店が点在していたが、それらを束ね「健康や美容は分けて考えるのではなく、同時に考えることが大切である」というロミーの考えのもと、”ホリスティック(包括的・全体的)”な視点を持つブランドとしてスタートした。

 

nealsyard_Londonそうした分断されていたものを総合的に見る観点や、ハーバルサイエンスと呼ばれるハーブを使った化学的なモノづくりへのアプローチ、そして原材料の選定から製造、パッケージのリサイクルに至るまで”人にも地球にも優しい”ことを意識した丁寧なモノづくりのもと、世界初の精油を取り入れた「フランキンセンス ナリシングクリーム」などの製品を世に出しながら、「ニールズヤード」は成長していく。

 

Product_Displayそんな同ブランドが日本に上陸したのは1985年。現在は台湾や韓国、シンガポールなどのアジア圏に加え、アメリカ、フィンランドといった各国にも進出しているが、中でも日本は代表的な市場になっている。

「本国からすると日本は一つのロールモデルになっていると思います」。そう語るのは、執行役員の梶原悠史さんだ。

「通常はイギリスで開発された製品を輸入し、各市場で販売するといった形ですが、例えば日本で一番人気の香りの『ウーマンズバランス』という製品シリーズは、日本のリクエストにより開発され、今は世界中に愛されるシリーズになりました。他にも『フランキンセンス インテンス ハイドレイティング エッセンス』という化粧水は、イギリスで販売されていたものを日本人の肌に合うように成分を作り替えてもらっています」。

 

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執行役員の梶原悠史さん

プロダクト以外にも日本の事例が海外に取り入れられているケースがあるという。カスタマーサービス推進室(CS)の吉田奈美子さんは「お客様からはパッケージの形状や使い勝手、店舗内の動線などに関してお声をいただくこともありますが、そうしたお声がグローバルで反映されることもあります」と話す。

 

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カスタマーサービス推進室の吉田奈美子さん

時代に徐々にフィットしてきたブランドの根幹

40年にわたり、「ニールズヤード」の成長に貢献してきた日本市場では、上陸当時から今に至るまでどのような変化があったのだろうか。「『ニールズヤード』は創業当時から、”人にも地球にも優しい”という考え方のもと、自然由来の素材を使った丁寧なモノづくりを大切にしてきましたが、日本上陸当時はオーガニックやサステナブル、エシカルといった概念は一般的ではありませんでした。しかし、時代が変わる中でそうしたことを気にするお客様も増えてきました。特にコロナ禍以降、外見だけでなく、身体の健康への意識も高まっている印象があります。ブランドの根幹は大きくは変わってませんが、徐々に時代にフィットしてきたのかもしれません」と梶原さんは分析する。

 

nealsyard_kajiwara&yoshidaCSとしてユーザーと直接接する機会の多い吉田さんも「お客様の層がより広がってきています」と語る。「昔はマニアックな方が使っているニッチなブランド、といったイメージがありました。しかし今は、商品の単なる良し悪しだけでなく、どのような材料を使っていてどのように作られているのか、使い終わった後はどうなるのか、といったことにプライオリティを置く方も増えていて、ブランドもより一般化してきているようにも思います」。

 

Product_Display_2上陸以降、日本でも着実に支持を広げてきた「ニールズヤード」は、40周年を祝うプロジェクトをスタートした。「これまでブランドを支えてきてくれたお客様と従業員、そしてPRの方々に向けて、『原点回帰』をテーマに、ブランドのこれまでとこれからを考える様々な取り組みを行っています」と梶原さんは説明する。

クラシカルとモダン。2つの要素を併せ持つ新ユニフォーム

nealsyard_uniformユニフォームの刷新もプロジェクトの一環だ。シタテル社と協業し、英国トラディショナルの象徴とも言えるトレンチコートに着想を得たクラシカルな要素を取り入れつつ、モダンな印象のあるデザインのユニフォームを制作した。ユニフォームの刷新をリードした吉田さんは制作の経緯について、こう語る。

「1つ前の制服はワンピースタイプのもので、5年ほどリピートしていたのですが、時代の流れからスタッフからパンツタイプの要望が増えていたこともあり、40周年を機に制服を切り替えることにしました」

 

nealsyard_uniform_2「新しい制服は安心感がありつつも、ファッション性があり、新しい印象を与えられるようなデザインにしたいと考えていました。そういった中で制服制作の知見を豊富に持ちつつ、コレクションデザイナーの方とも契約をしているシタテルさんに制作をお願いすることに決めました。結果的に私たちだけでは思い付かないような、時代に合わせつつもブランドの世界観を表現できる制服になったと思います」。

 

nealsyard_uniform_3デザインは複数案あった中から1つに絞った上で、数々のサンプル制作を通じて、オリジナルボタンへのブランドネームの刻印やブランドの象徴の一つでもあるブルーボトルの刺繍の背面へのあしらいといった細かいアップデートを行っていった。

 

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(左)ブランドネームが刻印されたオリジナルボタン (右)ブルーボトルの刺繍

「ベースとなるデザインは、イギリス発祥のブランドらしい現状のものに満場一致で決まりました。色味も様々な生地サンプルをチェックさせていただく中で、ブランドカラーに近く、シワになりづらい上、汚れが目立ちづらい色味の素材を選びました」と吉田さんは振り返る。

また、デザインだけでなく、機能面での調整も行ったという。「実際に制服を着るスタッフが納品作業やタッチアップなど、日々の業務をしやすいような機能性も必要でした。また、全国に店舗がある『ニールズヤード』は、各地にスタッフたちがいます。千差万別な体型のスタッフたち全員が似合う、ということも新しい制服が満たすべき条件でした」。

 

スタッフたちの声も反映して制作

特にサイズ感のチューニングには、店舗スタッフたちが貢献した。スーパーバイザー(SV)の伊藤亜由美さんは、サンプルを着用したスタッフたちの声を吸い上げていたという。

「私が担当する九州エリアのスタッフの中には、以前の制服はサイズ感が合わず、お店の中で一人だけ別支給のウエアを着ていた者もいました。今回の制服ではそういったスタッフも着られるよう、パンツのボトムスの部分なども含め、何度も試着してもらいながらコメントをもらい、調整していただきました」と伊藤さんは語る。

 

nealsyard_uniform_4そうして、デザインと機能性双方を両立した新ユニフォームが完成した。

「主観にはなりますが、店舗でスタッフたちが着用した姿を見た際に、非常にお店の雰囲気とマッチしていて、やはり制服の役割はこういったところにあるな、と実感しました。機能に関しても納品作業の際に立ったりしゃがんだりするのも楽で袖もまくりやすい上、誰が着ても小さすぎず、大きすぎない見え感になっています。制作途中では言いたい放題言ってしまいましたが(笑)、結果的にブランドのイメージに合いながらも、日々の業務を妨げない機能を持つ制服になったと思います」と伊藤さん。

 

nealsyard_uniform_5店舗スタッフだけでなく、来店客からも反響があったようだ。

「銀座店では、ファッション関係のお仕事をされているご夫婦が来店された際、『すごく良いデザインですね。買いたいです』といったお声をいただいたこともあります」と梶原さんは話す。

ユニフォームだけでなく、PR発表会やアニバーサリーアイテムの販売など、40周年を記念した施策を既に行っているが、今後も新たな取り組みを予定しているという。「お客様を含めた外部の方へ、ブランドの振り返りをさらに発信していけたらと考えています」と梶原さんは構想する。

 

”美しさ”は見た目だけではない

40周年という節目を迎え、原点を見直しつつ次なる一歩を見据えている「ニールズヤード」は今後、どこへ向かうのだろうか。

「重要なのは、信頼され続けるブランドになるということです。イギリスでは美しさとは何か、という話になると健康や、笑顔が多いといった身体と精神面のことを話すことが多いんです。『ニールズヤード』が求める美しさも、見た目だけでなく、中身も含めたホリスティックな美しさです」

 

nealsyard_kajiwara&yoshida_2「もちろん、市場の動向を意識する必要もありますが、ブランドとして今まで行ってきたことや信念を変えるつもりはありません。本国とも協力しながら、日本の市場に合わせた製品を提供しつつ、僕らのポリシーに共感してくれるお客様を増やしていきたいです」(梶原さん)。

 


 

「ニールズヤードの店舗スタッフは、“語ること”が好きなんです。化粧品はたくさんの製品がありますが、見た目はどれも似ています。だからこそ、各製品の特徴や歴史を、普段からお客様に語ることが多くて」

取材の際、ニールズヤードの吉田さんが語っていたこの何気ない言葉には、ニールズヤードの魅力が凝縮されているように感じられた。

オーガニックや自然との共生を掲げるブランドや企業は、スキンケア業界に限らず増えている。
そのなかでニールズヤードは、ホリスティックな美しさを追求する思想を軸に、ハーブを用いた科学的なアプローチと、人にも地球にも優しいことを意識した丁寧なものづくりを、長年にわたり積み重ねてきた。
ひとつひとつの製品の背景には語るべき物語があり、それがブランドとしての確かな輪郭を形づくっている。

物語は、人を惹きつけ、人と人とをつないでいく。
自然に囲まれたニールズヤードの店舗で、ブルーボトルが並ぶ棚を前にスタッフと会話を交わしていると、商品を選ぶという行為そのものが、心や暮らしを見つめ直す時間へと変わっていく。語られた物語が、使い手の経験や記憶と結びつき、選ぶ理由になっていく。
“何を買うか”ではなく、“どうありたいか”を確かめるような時間。

そうした体験の積み重ねが信頼や共感を育て、ニールズヤードの物語は、使い手の生活のなかでまた新しい物語として紡がれていくのだろう。

 

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