ライフスタイルをリ・デザインする
江戸川区、旧中川支流の川沿いの広い敷地に構えるライオン株式会社の研究開発拠点。数棟に分かれた白い建物の間を、真っ白な白衣を着た社員が行き来する。 一番奥の棟まで歩くと、他とは様子の違う部屋がある。芝生のようなグリーンの床、フラットな並び方のデスク、様々なガジェット。そして、働く社員が来ているのはデニム地の白衣。LION INNOVATION LAB だ。 2018年2月に、ライオン全社で発表された中期計画ミッションとして掲げられた言葉は「Re Design」。ライフスタイルが大きく変化する中で、改めて日常や生活をデザインする、ビジネスモデルをデザインする、そういった必要性が出てきたということだ。 INNOVATION LAB 主任研究員の藤村昌平さんは、立ち上げ経緯についてこう話す。 「時代的にイノベーション流行りではありますが、だからということではなく、ライオンとして、新しいビジネスを生み出していくということの本質を考えた末に、ひとつの部所を立ち上げるという結論になりました」 様々な部署から、基礎研究や開発、企画などのバックグラウンドを持つ気鋭のメンバーが集められた。
社内での異質な存在である象徴
「まず一番初めに言われたのが『ネクタイをとれ』『作業着を脱げ』ということでした(笑)今までの型にはまらない働き方をしていこうと。メンバーも様々なバックグラウンドですし、社内で一番カオスな場所でありたい。ただ、その中でもひとつ象徴としての「拠り所」が欲しいと思ったんですね」(藤村さん) LIONのDNAは残しながらも、特異な部所であることを体現するため、白衣のデフォルトである白からできるだけ遠い色にしたい。そんな想いから、デニム地にグリーンの刺繍やステッチを入れたコートを作った。 腕には「LION INNOVATION LAB」のロゴ、ボタンホールなど各所にコーポレートカラーのグリーンがあしらわれている。デザインは、性別、年齢など関係なく、誰が着ても格好良く着れるということも重視した。 INNOVATION LABの宇野大介所長も、「実際、着て社内を歩くといい意味で目立つ。日頃から着ていると、やはり一体感というか心の拠り所を感じますね。」と話し、毎日着用しているそうだ。 初めて他部所の人に見せる機会となったのは、4月の入社式だった。白の白衣やグレーの作業着を着た社員の中で、デニムコートが目立った。 「その日にちょうど社内表彰があり、LABのメンバーが壇上に上がったんですが、社内がざわつきましたね(笑)思惑通りです」(藤村さん)
「今日を愛する。」のためのイノベーション
これまで、歯磨き粉や洗剤などの日用品・ヘルスケア領域でいわゆるメーカーとしてモノを作って売ってきたLIONだが、INNOVATION LABでは、様々な企業などと協業しながら、サービスやアプリケーション、ガジェット、さらにはビジネスモデルまでを生み出していく。 例えば、上記動画内で紹介されているような、就寝時つけるだけで口が綺麗になるマウスピース、流すだけで食器が洗えるマシーンなど未来の生活を変えるアイデアは様々ある。 「働き方や生活が変わって、例えば洗濯物を家の中に干す人は今や9割にのぼります。洗剤のCMに出てくるような青空のもとで白いシーツを干すシーンは減ってきているのです。そもそも、たたむところまで全自動で行う機械も出てきている中で、洗濯という行為に対してどうアプローチするか…ということも必要になります。 ライオンが『今日を愛する』という言葉の元でできることって、本当はもっとたくさんある。既存の領域ではまだまだできていないことに、チャレンジしていけたらと思っています。 すでに2018年内に発表できそうなプロジェクトがいくつかあります。どんどん世の中に発表していきたいですね」(藤村さん) 120年メーカーとして積み上げた歴史を活かしながら、時にその大前提を軽やかに裏切り、人々の生活や健康の未来を本質的に考えるイノベーター集団。大企業の社内イノベーションとして、新たな注目の的となりそうだ。