目指したのは、新たなカルチャーとキャッシュポイントの創出

多くのスポーツチームがファンのための応援グッズを販売している。北海道イエロースターズもその例外ではないが、グッズとは別個のアパレルブランドとして「BYG」を立ち上げた。その理由について、澤野さんはカルチャーとビジネス、双方の観点から説明する。

 

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北海道イエロースターズは北海道札幌市を本拠地とする男子プロバレーボールクラブで、2025-26シーズンはV.LEAGUE MENに所属

「バスケットボールシューズやサッカージャージのように、スポーツアイテムが日常着に取り入れられるケースは多々ありますが、バレーボールにはまだなかった。そういった中で、バレー独自のファッションカルチャーをゼロから作ってみたら面白いのではと考えました」

「また、スポーツビジネスはシーズン以外ではキャッシュポイントを作りづらいという現状があります。しかし、もし日常的に着てもらえるようなファッションブランドを作ることができれば、シーズンに依存することなく、利益を得られる構造が作り出せるとも考えていました」。

 

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株式会社北海道イエロースターズ社長 澤野祐介さん

バレーボール発のアパレルブランドという構想は、澤野さんが社長に就任してすぐに始めていたそうだが、そのアイデアがより具体的になっていったきっかけが、シタテル社との出会いだ。同社の印象について、「ビジネスとクリエイティブ、双方の観点から見て非常に良かった」と澤野さんは振り返る。

「初めてお会いした際に、プロバスケットボールチームの長崎ヴェルカさんが立ち上げたアパレルブランド『ONE』をシタテルがプロデュースしたことを伺いました。『ONE』が応援グッズではなく、タウンユースを目的としている点は私が実現したいことと近い取り組みだな、と感じてよりイメージが具体的になっていきましたね」

 

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(左)シタテル株式会社 告鍬陽介さん

「加えて、訪問してくれたシタテルの役員の方や告鍬さんが私と同世代で、ファッションや音楽において共通言語がありました。ファッションを見ればどんな音楽が好きか一発で分かるような、カルチャーど真ん中の時代を経験した上で出力されるアパレルは、非常に洗練されたものになると思いました」。

何よりも重要な「ブランドの哲学」

その後両社はタッグを組み、本格的にブランドの構想を練っていくことになるが、まず着手したのが「ブランドの哲学の策定」だったという。

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BYG ブランドコンセプトであるBalance Your Gameとは? YOUR WORK(仕事)/ YOUR LIFE(生活)/ YOUR GAME(その二つに活力をもたらす何か) この三つのバランスを整えるサプリメントのような存在でありたい。その思いを誰の日常にとっても身近な洋服を通して伝えたい想いでスタートしたという。

「何度もヒアリングを行い、北海道イエロースターズの理念を咀嚼しながらアイデアを考えていきました。結果的にはBYGを含め、10案ほどコンセプトを提案させていただきましたね。ソリッドなものやビジネス要素の強いもの、メンズライクなものもあった中で、”調和”をベースにした比較的優しい印象のコンセプトである『BYG』を澤野さんが選ぶのは少し意外でした(笑)」と告鍬さんは話す。

澤野さんはBYGを選定した理由について、「”バランス”という言葉には天秤的な意味合いもありますが、調和するという意味もあるのが良いなと思いました。また、仕事や生活を調和できるあなたのエッセンスは?と人々に問いかけるようなブランドのコンセプトも非常に面白いと感じていました」と語る。

アイテムは「スポーツとの相性も良く、いずれ絡めていきたい音楽との親和性も高い」といった理由からストリートのテイストに方向性を定め、フーディやTシャツ、シャワーサンダル、そしてバケットハットなどを第一弾のアイテムとして用意した。

 

tsutaya_event_6tsutaya_event_7「ある程度経済合理性も加味しつつ、トレンドを一定程度抑えたいという考えのもと、アイテムラインナップは考えていきました。フーディは特に北海道は寒いため、長く着ることができますし、ロンTは4月から6月くらいにかけて需要が増えてくれば良いなと考えています。シャワーサンダルはチームの選手がよく履くアイテムを日常着として落とし込めればという考えが背景にあります」(澤野さん)。

 

hy-stars_yoshimurahy-stars_yoshimura_2デザインはBYGのロゴのほか、ブランドの哲学やドリンク缶をグラフィックとしてあしらっている。「ロゴはGが少し傾いているのがユニークで気に入っています。また、ブランドの哲学そのものをバックプリントに落とし込む、というのもありそうでなかった表現かなと思っています」(澤野さん)。

ドリンク缶のデザインに関しても、ブランドの哲学が背景にあるようだ。「BYGの根底には、生活と仕事、そしてその2つに活力をもたせる何かのバランスを整える”サプリメント”のような存在になっていきたいといった考えがあります。そうした思想と、グラフィックを現物化してキービジュアルに使う、といった展開のしやすさの観点からグラフィックを制作しました」(告鍬さん)。

 

hy-stars_yoshimura_3現状のラインナップは「まずはBYGを広めていく」という考えのもと、比較的シンプルな形にしていたが、今後は拡充していく予定だという。「現在販売しているフーディとセットアップとなるようなパンツを作る予定です。また、北海道イエロースターズのキーカラーでもあるイエローやネイビーをつかったアイテムもリリースしたいですね。特にパンツは、モノがよければ白Tなどシンプルなトップスでもスタイルが決まると考えているので、型からこだわって作っていきたいです」

「また、ゆくゆくはシューズも制作してみたいです。バレーシューズには規定がなく、膝に負担がかからなければバッシュでも良いんです。そのため、実はシューズの制作を最初に構想していました。制作に必要なロットや単価の観点からいきなり靴を作るのは難しい、といった結論になったのですが、ブランドがある程度育ってきたらいつか作りたいアイテムの1つです」(澤野さん)。

hy-stars_yoshimura_4コンセプトからアイテムまで、「熱量を維持しながら作り上げた」

ブランドの哲学の策定からアイテムの制作までの過程の中で何か困難はあったのだろうか。澤野さんは「ブランド立ち上げまでは非常にスムーズだった」と振り返る。

「世代が一緒で共通言語も多いことや、提案レベルの高さから、『この人たちだったら任せられるだろうし、スムーズに進むだろうな』と最初のプレゼンの時から思っていました。また、何よりも根性があるな、と個人的には感じていました(笑)」。

シタテル社側としても、スムーズに進行できたという感想を持ってるようだ。「澤野さんはアートの領域は厳密に数値化はできないと考えたり、デザイナーに任せる部分をすぐに判断したりと、ビジネスだけでなく、クリエイティブの観点も踏まえて僕らの提案を受けてくれていました。ビジネスとカルチャーが分断されていた時代を経験していた僕にとっては、珍しいなと思いました」(告鍬さん)。

シタテル社がコンセプトメイキングからプロダクトの制作までを一気通貫でできる点も澤野さんは評価している。「コンセプトの策定とアイテムの制作は分業されることも多いですが、一連の流れがパッケージ化されていないと熱量が一定にならず、ディテールに影響が出ると思っています。シタテル社との協業によって、熱量を常に維持しながらブランドの哲学やアイテムの制作を行っていけました」。

立ち上げ後にぶつかった「プロモーションの難しさ」

一方でブランド立ち上げ後の動きについては課題感もあるようだ。「一番難しいのはプロモーションにおいて、北海道イエロースターズをどこまで絡めるのか、という点です。当初はチームとは独立した形でのスタートを想定していましたが、立ち上げ初期はやはり認知拡大も必要だということを考えると、北海道イエロースターズに頼らざるを得ない。ただ一方で、頼り過ぎると結局バレーのファンの方しか買ってくれないものになる。どのようなバランスを取っていくべきなのかは今も悩んでいる点です」(澤野さん)。

その解決策の1つとして1月末に実施したのが、江別 蔦屋書店でのポップアップイベントだ。「新しいキャッシュポイントの創出と認知拡大の観点から、ポップアップはやりたいよね、と澤野さんとはずっと話していました」(告鍬さん)。

 

tsutaya_eventtsutaya_event_5イベントでは各面に「B」「Y」「G」をプリントした段ボールを組み上げた空間内で、北海道イエロースターズの選手4名によるトークセッションや握手会・交流会を「BYG」のアイテム販売と共に行った。「北海道でのイベントであれば、チームとの関連性も強いということもあり、次世代のファッションアイコンとなりそうな吉村をはじめとする選手たちに登場してもらいました。加えて、江別は我が地元でもあり、蔦屋書店は本が好きな私にとっては人生の一部でもありました」(澤野さん)。

 

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当日、イベント会場では4人の選手たちがBYGのウェアに着替え登場した。(左)島 波輝 選手 /(右)郡 浩也 選手

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池田 颯太 選手

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吉村 颯太 選手

結果的にイベントでは、1日当たりの売上として過去最高を記録した。「今後もポップアップは行っていきたいと思っています。例えば北海道イエロースターズがホームゲームを行っている函館の蔦屋書店だったり、知る人ぞ知る観光スポット、今後も増えていくであろうホテルだったりでイベントをしてみたいですね」

「また、札幌の一部では再開発が進んでいるのですが、建築資材の高騰で一時的に開発がストップし、臨時対応として空地の遊び場のようになっているエリアがあります。中でもストリートブランドや古着屋が集積している狸小路などで、バレーのネットを張って、子供たちがバレーをやっている傍らで『BYG』がアイテムを販売している、といったことが実現できたら面白いなと思っています。そういった形でファンの方が購入するだけでなく、ファッションとして広がっていき、結果的にバレーに興味を持ってくれる方が増えていく、といった相互作用が起きて欲しいです」。

小さな積み重ねから、ブランドを「当たり前」にしていく

様々な構想を抱えている「BYG」だが、今後はどのようなことに取り組んでいくつもりなのだろうか。

「直近では音声メディアをスタートしようとしています。副市長からラーメン屋の店主まで、札幌の色々な方たちに仕事や生活、そしてその両者のバランスを取るものについてインタビューしていくコンテンツを現在作っていますが、それを音声メディアにも拡張していきます。アパレルでは珍しい形のコンテンツなので、しっかりと続けていきたいなと思っています」

 

BYG「また、ブランドの哲学や理念を関わってくれるスタッフの方々全員により深く浸透させていきたいですね。そういった小さな積み重ねが今はとても重要だと思っています」。(告鍬さん)

「まだまだ先の話にはなるかもしれませんが、いずれは音楽とシンクロさせたいなと常々考えています。ハードコアのバンドであればSLANGだったり、ヒップホップであればTHA BLUE HERBだったりと、北海道にはすごく良い音楽がたくさんあります。それらとBYGをシンクロさせたイベントなどを通じて世界観を作り、年代・性別問わず『BYG』の服を着たり、イベントに集まったりすることが当たり前だよね、という世界が来ると最高だなと思っています」。(澤野さん)