倉田:よろしくお願いします。本題に入る前に、自己紹介をお願いします。
菊池:JAXAで企業と一緒に宇宙ビジネスを共創する「J-SPARC」というプロジェクトを進めている菊池です。
J-SPARCの一環で2020年7月にスタートした「THINK SPACE LIFE」というプラットフォームの立ち上げに携わりました。合わせてJAXAでは、宇宙生活と地上生活の共通課題を解決する製品を公募し、選定した製品を国際宇宙ステーションに搭載するという取り組みも開始しました。その第1回公募でスノーピークさんとシタテルさんのコラボレーションによるウェアである「宇宙船内服」を選定させていただきました。
菅:スノーピークの菅です。弊社が2014年に始めたアパレル事業に立ち上げ時から携わっていて、現在は素材開発や製品開発全般を行っています。スノーピークのアパレル事業では「衣食住働遊」をテーマに、街とフィールドを繋ぐシームレスなウェアの企画・開発をしています。
倉田:最後に私も自己紹介させていただきます。今回モデレーターをつとめる倉田です。ファッションライターとして執筆活動をしています。あと、あまり聞きなれないかも知れませんが、アーティストコーディネーターとして、アーティストと一緒に、ビジュアルや音楽の表現で企業のニーズに応える仕事もしています。
宇宙に行っても人は人だった-「宇宙船内服」のコンセプト
倉田:日本時間の10月6日、若田宇宙飛行士が国際宇宙ステーションに飛び立ちましたが、その時のJAXA内の雰囲気はどうでしたか?映画とかだと大きな施設の中でざわざわして、成功したらみんながハグしている、みたいな情景があると思うんですけど。
菊池:僕は普通に家で見ていましたよ(笑)。夜中の1時とかだったので。ただ若田さんのミッションに関わるメンバーは、それぞれの持ち場で緊張しながら見ていたと思います。僕も今回は、ウェアが宇宙に行くということで、いつもとは違った気持ちで見ていました。
倉田:そのウェアはスノーピークとシタテルが共同開発したものですよね。開発のテーマや、こだわったポイントはありますか?
菅:最初は宇宙船内のQOL(Quality of Life: 生活の質)向上という大きなテーマで始めましたが、宇宙飛行士に深くヒアリングしていくと、「宇宙でも地球と同じ心持ちでありたい」というニーズがあることがわかりました。そういった点を考慮して、「ホールガーメントの技術を使ったテクニカルな館内着」というコンセプトで提案したところ、無事採用に至りました。
倉田:宇宙は地球と全く違う環境のように思いますが、宇宙船内は地上にいるようなリラックス感がポイントだったということですか。
菊池:皆さんも仕事とプライベートを切り替えながら生活されていると思いますが、宇宙でもそれは変わらないんですよね。「宇宙は最先端」というイメージがあると思いますが、そこで生活するのは結局同じ人間なんです。
若田宇宙飛行士の即答
倉田:素朴な疑問ですが、宇宙船内服のカラーが黒なのは何か理由があったんですか?
菅:Web会議で若田さんから「黒がいいです!」と即答いただきました(笑)。宇宙は暗いというイメージがあったので、目立つ色を検討していたのですが、黒の方がリラックスできるということなのかもしれません。
菊池:若田さんは今回5回目の宇宙滞在なんですよね。過去の滞在で色々な服を着用された上で黒を即答で選ばれたということが僕にとっても重要なインサイトであり、興味深いと感じました。
倉田:フィットするものを作るため、ご本人との対話が大事ということなんですね。宇宙って聞くと想像できないことが待ち受けているように感じますが、「宇宙飛行士は同じ人間だ」という視点でものづくりをされているのが面白いです。
新たなニーズを生み出す思考法
倉田:今日のテーマの「新たなニーズを生み出す思考法」についてなんですが。今回の宇宙船内服のような、日常生活の豊かさを1歩先に進める提案をしていくために、お二人は日々どのように考えて生活をされていますか?
菅:昨今はおしゃれなだけの服は通用しないと思っています。生活の質を向上させる、などの目的が先にあって、出来た服がおしゃれであればいい、という発想です。ここで一番大事なことは何を目的にするかだと考えているので、「目的の個数」を増やすような体験・経験を積極的にするようにしています。空想も大事だと思いますが、やはり体験・経験が無いと、作るものにリアリティが出ないと思います。
菅:例えば僕は趣味で登山をするのですが、山を登るのに3~4時間かかることって普通じゃないですか。でも、街で3~4時間歩くことはなかなかない。そう思って、渋谷から家まで3時間歩いて帰って、街と自然の違いを感じる体験などもしています(笑)。
倉田:菊池さんはどうですか。
菊池:宇宙開発において、例えばロケットを作る過程では、この数値以内のスペックに収めないといけない、といった定量的な制約や条件があります。しかし、衣食住分野の新製品開発の過程では、QOLなど定性的な概念も不可欠な要素だと考えています。
菊池:初めて宇宙に行く飛行士は色々と慣れないことも多いですが、先輩飛行士から「これとこれを組み合わせると美味しいぞ」「こうするとうまく地球の写真が撮れるぞ」などのアドバイスを聞いて宇宙での環境にフィットしていくと聞いたことがあります。こういった暗黙知が実は貴重で、ビジネスのチャンスにもなると考えています。
【登壇者】
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)
新事業促進部 事業開発グループ
J-SPARC プロデューサー
菊池 優太氏
株式会社スノーピーク
未来開発本部
エグゼクティブクリエイター
菅 純哉氏
アーティストコーディネーター
ライター
倉田 佳子氏
もう1つのカンファレンスセッションレポートはこちら
共創から生み出す、ファッションの新しい価値【TSI×講談社ミモレ×KESIKI.inc】