石川:今日はどのように多様なバックグラウンドの人が共創して、新しい価値を創出しているのかをお聞きしていければと思います。まずは皆さんから自己紹介をお願いします。
中村:株式会社TSIの中村です。デジタルジェネレーション事業ドメイン長として、アパレル8事業と、コスメやカフェの事業を管掌しています。
川良:出版社の講談社でミモレというウェブマガジンの編集長をつとめています川良と申します。「ミモレ」は7年半前に女性向けのウェブオンリーの媒体としてスタートしまして、今年2022年6月に「ミモレストア」というコンセプト型ECショップをメディア内に作りました。
福田:ミモレストアでバイイングディレクターをしている福田です。他は雑誌や女優さん向けにスタイリストの仕事をしています。
石川:私も自己紹介させていただきます。株式会社KESIKIの代表をしており、デザインの持つ創造性を用いて企業を変革する仕事をしています。デザイナーの育成にも力を入れています。今日はよろしくお願いします。
「もの」ではなく「ストーリー」を売るミモレストア
石川:最初に、ミモレストアが立ち上がった経緯やストアの特徴を教えていただけますか?
川良:3、4年前は「出版社が服を売るのはどうなんだ」という社内の雰囲気もありましたが、去年講談社がグローバル戦略の一貫として”Inspire Impossible Stories”(あり得ない物語を作り出そう)というミッションを打ち出したこともあり、新しい試みとしてミモレストアの立ち上げを決めました。
ミモレストアでは、「商品を手にした人の生活がどう変わるか」「おしゃれのスタイルがどう変わるか」といったストーリーを記事にして、読者さんに届けています。
ミモレストア:美しく育てる喜びを日々の暮らしに【山葡萄のかごバッグ】より引用
川良:例えばこのバッグは18万円以上するんですが、「おばあちゃんになっても愛せるもの」というコンセプトで、バッグの経年変化とともに自分が年齢を重ねることの面白さを記事にして届けています。実際に買うまで至らなくても、読んでもらうことでミモレが今お伝えしたいおしゃれや暮らしのスタイルを提案できる。それがミモレストアの特徴で、メディアがECをやる意味でもあると思っています。
石川:福田さんは普段スタイリストだと思いますが、共創という意味で、ミモレストアにはどんな面白さがありますか?
福田:今は、「これかわいいよ」というだけで人は物を買わないんじゃないかなと思っていて。かわいいだけじゃなくて、その背景にある何かを伝えられるのはメディアとコラボする面白さですね。
コロナが変えたファッション・トレンドの価値観
石川:中村さんは多様なブランドを扱っていらっしゃると思いますが、その中でどのような共創をされていますか?
中村:例えば”hueLe Museum”はファッションにアートとフラワーを掛け合わせたブランドでして、その中で多くのキュレーターの方と共創しています。コロナ禍で多用な価値観が表面化してきたので、こういうコラボは最近のトレンドなのかなと思いますね。
また最近は、既存と違うやり方をトライしやすい環境ができてきたと思います。”MECRE”というブランドでは、立ち上げ時に完全受注生産での販売をトライアルしました。ロットの面などで課題は残っていますが、必要な人に必要な分をお届けするビジネスは、今だからこそトライできるようになったのかなと感じています。
石川:受注生産のワードが出ましたが、ミモレストアではどうでしょう。
川良:ミモレストアも完全受注生産です。商品点数も絞っているので、確実に反響があるものを作ると決めていますね。
福田:販売を諦めた商品もありましたね。理由はやはりロットの問題で、大きいブランドさんだと100着以上しか受け付けません、みたいなことがあるので。
中村:個人的には、今はもう商品の数で見せる時代ではないな、と感じています。過去は毎月40品番ほど新商品を出していたんですが、商品の価値を丁寧に伝えながら利益を出していくとなると、そんなに商品数はいらない。アパレル業界が物余りを強く指摘されている時代なので、こういう所に対応していかないと、生き残れないと思っています。
石川:今までのファッションって、「トレンドものを今着る」ということを高速回転させている感覚だったんですが。お話を聞いていると、今は真逆のアプローチをとっているのが面白いですね。
川良:私たちが20代の頃はまさに高速回転って感じでしたよね(笑)。今自分たちが40代になって、劇的に価値観が変化しているのを感じています。「ものを買うっていいことなのかな?」とか、迷いながら暮らしてる人も少なくないと思うんです。ミモレの中でも実はおしゃれの断捨離の記事がすごく人気があって。私たち女性誌は長年「トレンドものを買っておしゃれしよう」と伝えてきたんですけど、そこに疲れてる人もいるんだなって感じました。
石川:40代に限らず、他の世代の価値観も変わっているんじゃないかと思います。そういう場面で大事なのが、表層的なニーズではなく、本質的なニーズをどう読み解くか。
表層的なニーズを読み解くと、「とにかく売る」という答えになる。一方で、例えば「じっくり豊かな生活をしたい」という本質的なニーズに対して、必要なデザインとコミュニケーションを載せた製品を提供していくと、それが実はサステナブルな社会の実現や、ライフスタイルそのものの変化に寄与していることになるんだと思います。
共創を生むための「個」の人格
石川:共創の場では、個としてのコンセプトや美意識があって初めて意味あるものができるのかな、と思うんですが。
中村:例えば株式会社HYBESは「エシカルファッションカンパニー」というミッションを立ててスタートしました。
こういうミッションが軸になって経営戦略ができ、その上に人と組織があって、それに基づいて業務フローができて、最終的にお客様やファイナンスにも繋がっていく。
なので、根幹のミッションを明確にしないと、お客様の共感は引き出せない。
新しい施策も次々考えているんですが、僕が管掌してる事業では、「ミッションに当てはまらないことは儲かったとしてもやるな」と言っていますね。
石川:なるほど、素晴らしいですね。ミモレの方はどうでしょう?
川良:ミモレはちょっと「村」っぽいところがあるのかもしれません。読者の方に「ミモレは私のサードプレイス(家庭でも職場でもない第三の居場所)です」って言っていただくことがあるんですが、私たちも読者さんを消費者だとはあまり思ってなくて。ミモレっていう、一種独特な「場」を共有している「村民」の皆さんが幸せになるために、良い商品とサービスを提供します、みたいな気持ちなんです(笑)。
福田:ミモレの試着会で読者さんたちに会うと、「昔こうやって友達と買い物行ってたな」っていうのを思い出すんですよ。大人になると、誰かと一緒に買い物に行くことってあまりなくて。「これどう思う?」「それいいじゃん!」とか言いながら、楽しく買い物していたときの感じがミモレにはあって、読者さんとの距離の近さを感じますね。
石川:共創というと企業同士のイメージが強いんですが、置き去りにされがちなのがユーザーとのコラボ。「村民」「友達」という話がありましたが、1ユーザーを深く知り、共感できるかがすごく大事なんですよね。「N=1」という言葉をよく使うんですが、それぐらいの解像度で運営されているんですね。
川良:解像度はすごく大事にしています。「この方はこういうこと服は着なさそう」「あの方は面倒くさいって言うよね」みたいな話をしています。
石川:TSIさんも講談社のミモレさんも、自組織を明確に人格化して他の企業やお客さんと接しているんですね。そういうコミュニケーションで共感が生まれ、共創が始まるんだなと感じました。
石川:ありがとうございました。「共創から生み出すファッションの新しい価値」というテーマでしたが、もしコロナ禍の前にこのイベントをしていたら、「D2Cブランドを高速にスケールさせるには」みたいな話に終始していたんじゃないかと思います(笑)。今日は経済性だけでなく、社会性、文化性の話が出ましたね。コロナで個人の生き方と会社の事業がボーダーレスになっていて、その中で多様なコラボレーションが起きざるを得ないような世の中になってきてるのかな、と思いました。
【登壇者】
株式会社TSI
デジタルジェネレーション事業ディビジョン ディビジョン長
中村 晋氏
https://www.tsi.inc/
株式会社講談社
ミモレ 編集長
川良 咲子氏
https://mi-mollet.com/
株式会社講談社
ミモレストア バイイングディレクター
福田 麻琴氏
https://mi-mollet.com/list/store
KESIKI.inc.
パートナー
石川 俊祐氏
https://kesiki.jp/
もう1つのカンファレンスセッションレポートはこちら
新たなニーズを生み出し続ける企業の思考法【JAXA×snowpeak×倉田佳子】